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2020-08-31 DX データ活用 働き方改革
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OSS化でさらなる進化を遂げるAI/Deep Learning開発プラットフォーム「KAMONOHASHI」

左から、三國 香織さん、川本 修さん、雄郷 覚良さん、濱野 拓人さん

画像認識においてAI/Deep Learningが注目されています。しかしAI開発の実績やノウハウがない企業やエンジニアとって、開発は容易ではありません。このような状況を受け、当社のシステム研究開発センター(以下、シス研)では、AIの開発プラットフォーム「KAMONOHASHI」を開発。2019年のOSS化以降は定期的に機能追加を行うなど、進化のスピードを加速させています。一方でKAMONOHASHIのキャラクター「かもっち」のLINEスタンプもつくってしまうなど遊びごころも持ち合わせるKAMONOHASHIの開発メンバーに現在の状況、今後の展開などを聞きました。

エンジニアが人力で行っていた副次作業を自動・効率化

――改めて、KAMONOHASHIについて説明していただけますか。

雄郷 覚良さん

雄郷:KAMONOHASHIは、AI/Deep Learningを用いた画像認識アプリケーションの開発を加速させるためのAI統合開発プラットフォームです。具体的にはDeep Learningのモデル開発・学習実行を自動・効率化することで、AIエンジニアがモデル設計やコーディングに集中できるAI開発環境を実現したものです。イラストを見てもらうと分かりやすいですが、開発エンジニアがこれまで人力で行っていた開発に必要な副次作業を、KAMONOHASHIが代わりに自動で行います。

――副次作業とは、具体的にどういったものなのでしょう。

雄郷:導入時はもちろん、学習が始まってから大量に発生するデータの収集、コンピューターリソース(特にGPU)の確保ならびに開発に適した環境の構築、そして実際に開発が始まってからのデータやインフラの運営・管理などです。そしてもちろんAI開発の肝である、モデル設計や学習といった試行錯誤の管理も、KAMONOHASHIを利用すれば大幅に効率化できます。

これまでAI開発は、開発エンジニアが試行錯誤しながら最適なAIを開発していくのが一般的なプロセスでした。ただこのような手法では、膨大なデータや学習モデルを開発エンジニアが管理する必要があり、管理には高度なノウハウが必要でした。そのためこれらのノウハウがない企業ではAIを導入したとしても、AIモデルの作成やその後の運用がむずかしいとの課題がありました。

特に製造業ではこのような状況が顕著でした。AI開発ではデータを集めながら徐々に最適化していきますが、そもそもデータが足りないのか、それともモデルを改善すべきなのか。開発を進めていくうちに先の管理能力がないと、いま何をやっているのかが分からなくなってしまうからです。

チーム開発においては、ソースコード管理にGitHubを使うように、情報を全メンバーが共有しておく必要があります。この役割(機能)もKAMONOHASHIは実装しています。そのためコミュニケーションロスの削減にも貢献します。

――川本さんはKAMONOHASHIを実際のAI開発で使っているそうですね。

川本 修さん

川本:私は、KAMONOHASHIの開発と兼業で2年ほど前から実際のAI開発で使っています。正直なところ、最初は自分で管理した方がいいだろうと考えていましたが、実際に使ってみるとかなり便利なツールで、今ではAI開発になくてはならない存在になりました。

――特にどのあたりが便利ですか。

川本:GPUなどの高性能なリソースは、他のプロジェクトでも使いたい場合が大半なので、その振り分け(調整)を自動で行ってくれる機能が特に便利だと感じています。また試行錯誤の履歴が残っているのも便利ですね。

プロジェクトが終わり、どのようなモデルがどんなデータで開発されたのか。以前であればブラックボックスでよしとされていたAIの中身を、知りたいお客様が増えましたから。KAMONOHASHIであれば履歴がすべて残っているので、その履歴を振り返り検証することで、完成したAIのエビデンス、ロジックをきちんとレポートとしてまとめることができ、お客様に提出することができます。

「検品」などでAIを活用したいメーカーからの問い合わせが増加

――そもそもKAMONOHASHIを開発しようと思ったきっかけは何だったのでしょう。

三國 香織さん

三國:シス研では2016年から、Deep Learningを利用した画像認識アプリケーションの研究・開発に取り組んできました。その取り組みのなかで開発者が直面した課題を解決したい、このような想いからKAMONOHASHIは開発されました。現在では似たようなプラットフォームがありますが、当時KAMONOHASHIのようなプラットフォームはありませんでした。そのため社内用として開発されましたが、いずれは社外や海外にも展開したい。当時の開発者にはそのような想いもあったと聞いています。

――開発(進化)の変遷について教えてください。

三國:大別すると2016~2017年のKAMONOHASHI開発立ち上がりの初期と現在OSS化しているものの2つになります。初期(2016~2017年)は、データアップロード、データセット作成、学習実行、学習結果と履歴確認、GPUリソースの管理機能といった最低限の機能しかなく、利用も社内のみでした。そして2018年以降にOSS化し世に出ていくことになります。

濱野 拓人さん

濱野:OSS化以降は社内に限らず、社外利用者からのニーズやイシューをフィードバックし、新たな機能として追加していきました。細かなバグ改善などは月に一度の頻度で行っていますし、大きな機能追加や改善なども行っています。

――具体的にどのようなニーズやイシューに応えることで、KAMONOHASHIは進化していったのでしょう。

濱野:先ほど伝えたように、初期は基本的な機能しかありませんでした。OSS化後のv1.1.0になると、コードの変更履歴が確認できる「Jupyter Notebook」を実装しました。

v2.0.0では、CPUサーバやシングルノードでのインストールを可能にしました。当初、動作には4台のマシンが必要でしたが、マシン1台で動作するようにとのニーズに対応したもので、現在はGPUがなくとも動作するよう改善されています。

――OSS化したことで、利用者が一気に増えたのではありませんか。

三國:はい、特に製造業のお客さまからのお問い合わせが多く、大手メーカーのプロジェクトで2年以上にわたり利用され、AIエンジニアの育成・引継ぎにも活用されているとの事例も出てきています。

濱野:製造現場での検品や不良品の画像認識を行うAIを開発したいメーカーからの問い合わせが多いですね。

社内での導入も進んでいて、これまで30件ほどのDeep LearningプロジェクトがKAMONOHASHIを利用しています。昨年には、世界中のデータサイエンティストが腕を競い合うKaggleに当社社員が参加し6位に入賞しました。その入賞にKAMONOHASHIが貢献できてうれしかったですね。

三國:Kaggleには、弊社のDeep Learning開発者が今年も参加して、4位に入賞しました。

――4位はすごいですね。

(関連情報)

Kaggle世界ランク6位をマークしたNSSOL Deep Learning研究チームの力とは~AI開発プラットフォーム『KAMONOHASHI』が支えた快挙~
NSSOLチーム、世界的なデータ分析コンペKaggleで第4位~病理画像データから前立腺がんのステージ評価を行うコンペティション「PANDA Challenge」~

さらなる進化を目指しOSS化

――ところで、OSS化はどういった意図から決断されたのでしょう。

雄郷:KAMONOHASHIはもともと社内利用が主だと先ほどお伝えしました。そのため一般的なAI開発ツールとして考えた場合、実はそれほどニーズがないのでないか、もっと広くAI開発に携わる人からのニーズを汲み取る必要があるのではないか。開発を進めていくうちにこのような考えに至り、OSS化を決断しました。

――公開している情報はソースコード以外にどういったものがあるのでしょう。

三國:公式ウェブサイトを作成しました。サイトには先ほどお話ししたKAMONOHASHIの概要、ソースコードをアップしてあるGitHubのリンク、インストール方法、実際の利用方法といった情報を記載しています。OSSはApache License, Version 2.0ライセンスで公開し、どなたでもご利用できるため興味のある方をぜひインストールをお試しください。

――社内初となる、LINEスタンプも作ったそうですね。

デザイン 梅村 ⿇⾐⼦

三國:Deep Learning開発や開発環境の運用、アプリ開発での“あるある”がどんどん増えていったので、スタンプ化し多くの人と共有したらおもしろいのでは、と。またキャラクターがあれば、KAMONOHASHIのコミュニティの活性化にもつながるだろうと考え、「かもっち」が誕生しました。実際、昨年出展した展示会では、LINEスタンプのおかげでKAMONOHASHIに愛着を持ってくださるお客様もいました。

――オープン化も含め、開発に際し意識してきことはありますか。

濱野:ユーザごとの要望、変化の激しいAI開発のトレンド。両方を意識した開発を進めています。具体的には、カスタマイズ性、汎用性のバランスです。

三國:導入ハードルを下げることも意識しています。前述したような各種マニュアルなどをホームページ上にドキュメントとして詳しくアップしているのは、そのためです。実際ホームページを見てもらうと分かりますが、インストール・アンインストール方法、バージョンアップ方法についての説明を、ドキュメントで詳しく紹介しています。TwitterやYouTubeチャンネルも開設。メールサポートも行っていて、YouTubeではインストールならびに動作に必要なマシンのスペックや環境を事細かに紹介しています。

――OSS化以降の手応えはどうですか。

三國:私たちが想定していなかったような、まさに思い描いていたニーズのピックアップになるのですが、具体的に情報を得ることができていると、手応えを感じています。
たとえば、学習環境の準備で戸惑っている企業の方がいらっしゃったり。

濱野:Deep Learning環境構築にも使える、との声も届いています。そのほかGPUありのjupyter環境が社内で簡単に使える点に利便性を感じている、といった情報がピックアップできています。

KAMONOHASHIに固執することなくお客様の課題解決に貢献していきたい

――今後の展開はそのように考えていますか。

川本:個人的には技術的に尖った、飛び道具的な機能を実装させて欲しいです。そしてそのような機能を活用することで、Kaggleのようなコンペに参加している人からより支持されるようになるといいですよね。一方で、ビジネス的なアプローチも重要だと思っています。

雄郷:ビジネス面で言えば、KAMONOHASHIを通じて、AI開発に限らずお客様のニーズをより拾いたい、社外との関わりやコラボレーションの可能性を広げたいと考えています。具体的にはDeep Learningに関連する実ビジネスのサポートです。

現状では絵を描いている段階ですが、たとえば私は次のような状況をイメージしています。KAMONOHASHIがあることで、製造業者が自ら次々とAIを生み出すような。そしてそのような状況が一般的になるような未来です。

当然、AIまわりのリソースや技術が必要となってきますから、その点においてもNSSOL・シス研がこれまで培ってきた技術力やソリューションで貢献できるだろうし、貢献したいな、と。そしてこのような包括的なサポートの結果として、お客様のビジネスが最大のパフォーマンスを発揮する。これが、私たちが目指している今後の姿です。

三國:付け加えると、KAMONOHASHI AIは現時点では現場の開発エンジニアが対象となっています。ですがいずれはそれ以外のメンバー、たとえば製造業のDX推進担当者や、AI案件の企画・開発担当者などにも利用してもらえるようになりたいと考えています。

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