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2019-10-03 サステナビリティ
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2020年度小学校プログラミング学習必修化に向け、小学校の先生をサポートする教材を開発

~K3Tunnelミッション9「データをめぐる謎を探れ!」~

左から和田翔太氏(企業教育研究会)、今野奈穂子さん(NSSOL)、藤川大祐氏(企業教育研究会/千葉大学教育学部教授)

日鉄ソリューションズ株式会社(以下、NSSOL)は、プログラミング学習サイト「K3Tunnel(ケイサントンネル)」に、小学校で必修となるプログラミング学習に対応した教材「データをめぐる謎を探れ!」を新しく公開しました。

(参照)K3Tunnel「データをめぐる謎を探れ!」

「データをめぐる謎を探れ!」は、NSSOLと千葉大学教育学部から発足した企業と連携した授業づくりを専門とするNPO法人企業教育研究会(以下、ACE)との共同開発です。教育の専門家とシステムエンジニアがコラボした先生向けの教材とはどのようなものでしょうか。教材開発さらには教育にかける熱い思いを語ってもらいました。

教育業界の専門家の知恵やノウハウを入れたい

今野:私たちは2017年にプログラミング学習サイト「K3Tunnel/ケイサントンネル」を開発し一般公開しました。サイト上でのコンテンツ公開のほかに、CSR活動として実際に小学校を訪問して出張授業を行っています。2018年度は9校を訪問し、600名ほどの子どもたちにプログラミング学習を体験してもらいました。子どもたちには楽しく学んでもらっていると思いますし、先生方からもお礼の言葉もいただくのですが、ひとつ課題を感じています。

今野奈穂子さん(NSSOLシステム研究開発センター)「K3Tunnel」の開発者。

今野奈穂子さん(NSSOLシステム研究開発センター)「K3Tunnel」の開発者。

―― どういった課題でしょう?

今野:先生方が、「私たちがK3Tunnelを使って授業をするのは難しい」とおっしゃることです。できれば現場の先生ご自身が授業で使えるものをつくりたいと思っているので残念だなと感じました。

和田:そこで私たちにお声がけいただいたのですよね。

今野:そうです。教育の専門家であり、企業と共同で授業や教材を開発し実績もあるACEさんに相談してみようと思いました。

新しい学習指導要領の単元に直結した内容が学べる

―― 共同で開発した教材はどういう内容ですか?

今野:「データをめぐる謎を探れ!」という教材で、架空の小学校が舞台です。子どもたちは「探偵クラブ」の一員として依頼に応えていきます。ひとつ目の依頼は水泳クラブに「1番速い人」が4人いるという謎を解いてほしいというもの。ふたつ目がその4人の中から誰を大会の代表選手に選べばいいかをデータを分析してアドバイスしてほしいというものです。

和田翔太氏 NPO法人企業研究会事務局長。「データをめぐる謎を探れ!」開発の中心的メンバー

和田翔太氏 NPO法人企業研究会事務局長。「データをめぐる謎を探れ!」開発の中心的メンバー

和田:種を明かせば、ひとつ目の依頼の答えは「最小値」「平均値」「中央値」「最頻値」といった代表値で比べた結果で、ふたつ目は、ヒストグラム(柱状グラフ)から各選手の特長を捉え最終的に代表選手を考えるというものです。

―― プログラミング学習だけれども学ぶのは算数ということですか。

今野:はい、この教材は算数の単元をしっかり理解することを目的にしています。プログラミングは4人の選手の記録データを分析するときに使いますが、授業の中でのプログラミングが占める時間は抑えていますし、比較的簡単なプログラムを組んでもらうようにしています。

―― プログラミングを学ぶわけではないのですね。

今野:そうです。プログラミングスキルの習得を狙っているわけではないです。たくさんのデータを分析するのにプログラムを組んでしまえば一瞬で計算ができてしまいます。そうした経験を通じてコンピュータの便利さや有用性を理解してもらうことを狙っています。

和田:二つ目の依頼では4人の選手の2か月分のデータを分析しますので手計算では時間が足りません。コンピュータで計算すると速くて正確ですし、その分子どもたちは分析に注力できます。代表選手を決める根拠を考えるあたりは、世の中には正解のないことがたくさんあって、自分で答えを見つけ出さなければならないときがあるという実社会に通じる思考も体験してもらえます。

藤川大祐氏 NPO法人企業研究会理事長/千葉大学教育学部教授。「データをめぐる謎を探れ!」開発ではさまざまなアドバイスをいただく。

藤川大祐氏 NPO法人企業研究会理事長/千葉大学教育学部教授。
「データをめぐる謎を探れ!」開発ではさまざまなアドバイスをいただく。

―― なるほど。すごく深い内容ですね。どういうことを心がけて開発したのでしょうか。

藤川:私たちは教材を開発する際、「現場の先生たちが使いやすい」ということと「学習指導要領に沿っている」といったことを常に意識します。学習指導要領で、教科の中でプログラミング学習することが求められていますので今回は2020年度から6年生の算数に新たに加わる「Dデータの活用」という項目として扱えるようにしました。

和田:事前に新学習指導要領の内容を確認して、データの活用の授業を支援する必要性とプログラミング学習の親和性に目をつけました。

藤川:学習指導要領は約10年に1度変わります。そうすると新しいことを新しい方法で教えなければなりません。新しい学習指導要領に組み込まれる「Dデータの活用」は現在中学で教える内容が小学校に降りてくるものなので小学校の先生にとっては教えにくいと思います。更にプログラミング学習が加わるとなると先生も相当辛いと思います。

和田:あとプログラミングの有用性を感じる内容であって、教科学習と社会をつなぐという視点も入れようと考えました。

藤川:そういう意味で、K3Tunnelは課題に対していろいろなデータを分析することで解決策を見出すことができます。これは実際の社会でのコンピュータの使い方に近いです。現在主流のキャラクターを動かすといった子どもの遊びの延長線上にあるような教材では企業の業務にコンピュータをどう使っているかなどは想像しにくいんですね。だからK3Tunnelを見たときにここまでできるのかと非常に感動しました。

今野:世の中のさまざまな事象を数式・数理モデル化し検証・予測することは、私たちの身の回りのあらゆる場面で使われています。そしてその計算の際にはK3Tunnelとは比べものにはならない高いレベルのプログラミング技術を使っています。
ただ、初めてプログラミングをする子どもたちができることは、とても限られています。なので、プログラミングが身近な生活や社会でどう役立っているのかといったところまでが遠すぎて見えてきません。K3Tunnelでは、その遠くにあるものをチラっと見せられたらと思っています。

藤川:子どもたちにとってチラっとでも見えるか、チラっとも見えないかの差は大きいです。

―― 先生が使いやすいというポイントを具体的に教えてください。

和田:どの単元でどう使うかという指導案をきちんとつくっています。あと授業進行スライドと子どもたちが使うワークシートもつくりました。また、子どもたちの興味を喚起するために課題設定をアニメーションにしています。アニメーションを使った授業進行は藤川がずっと研究を続けている分野になります。

藤川:これまで数々のアニメーションを作ってきました(笑)アニメの導入は本質をついていて間違いなく子どもにとっては楽しいしですし、先生も一緒に見ているだけでいいんです。そうすれば子どもと同じレベルまでは理解できる。先生が予習しなくてもいいというのはそういうわけです。

今野:ACEのみなさんと一緒に開発していて先生を支援するノウハウを蓄積されているのがよくわかりました。根底に流れる授業づくり自体が私一人で教材を作っていた時とは違っていて、さすがだなと思いましたね。

―― では、授業の流れはACEさんが考えて今野さんはお任せしたという感じですか?

藤川:通常、私たちは企業の広報部門と授業開発することが多いのですが、広報の方は技術の専門家ではない場合が多いので、私たちがある程度専門家の方に取材してから教材を作り込んでいます。今回はシステムエンジニアの今野さんがご担当者でしたので、我々のスタッフたちも今野さんには相当相談させていただいて試行錯誤しながらつくったと思います。

今野:お互い相談は結構細かくしました。

和田:実は最初にお話をいただいたときに、すでに自社開発したツールがあってしかも出張授業も実践しているということに非常に衝撃を受けました。そういうケースは非常に稀でしたのですごいなと。

今野:そうだったんですね(笑)

―― 今回のプログラミング学習必修化の動きについて、改めて教育の専門家である藤川先生のご意見をお聞かせください。

藤川:時期についてはもう少し準備が整ってからでもよかったとも思いますが、必修化自体はよいことだと思っています。プログラミング的思考を子どもたちが身につけることは、教育において非常に重要だと考えているからです。

―― それはなぜでしょう。

藤川:現在、様々な企業がアプリやコンピュータソフトをつくることが当たり前になっています。むしろアプリを提供できない企業というのは困るのではないかと思うくらいです。でも、ユーザーは使っているだけでアプリはどういうことが意識されて開発されているのか全くわからないです。受け身で使い続けることが果たしていいのだろうか、という問題意識を持っています。

和田:ITを利用したサービスがどんどん増えていく中で、ブラックボックス化が進んでいることを感じますね。

―― ブラックボックスをなくすことが教育の観点からは重要なのですね。

藤川:そうです。子どもたちが身の回りのもの、例えば「テレビはなぜ映るのか」といった疑問や興味を持たなければ好奇心は育たない。受け身になってしまったら自分から新しいものをつくらなくなってしまいます。ただ、現代はテクノロジーが高度化しすぎて身の回りのものが不思議だと子どもたちが思っても先生たちには教えることが難しくなっています。
今野さんには企業がプログラムをどう扱っているのか専門的なところを子どもたちに教えてもらいたいですね。

和田:つくる側の立場を知るというのはキャリア教育の側面もあります。

藤川:まさにそう。私たちが企業の方とご一緒するときに意識しているのは「生き方のモデル」という点です。子どもたちは身近な大人から影響を受ける機会が減ってきて、自分の憧れを描きにくくなっています。しかも社会はどんどん変わっているので5年後、10年後の職業がどうなるかわからないとなったら子どもたちはどうすればいいのでしょう。だから変化の中で生きていくのにたくさんの人に出会ってもらって、自分はどう生きるべきかをなんとなくでもいいからイメージしてもらいたいです。

今野:私も授業の後で子どもたちから「SEになりたい!」と言ってもらえることが最高の誉め言葉と思っています。今後、ACEさんにはこの教材を教員のみなさんに知っていただくための活動も協力していただきけることになり、大変心強く思っています。引き続きよろしくお願いします。今日はありがとうございました。

K3Tunnel「データをめぐる謎を探れ!」

K3Tunnel「データをめぐる謎を探れ!」

■NPO法人企業教育研究会
2003年3月設立。千葉大学教育学部、兵庫県立大学を基盤として活動する「企業と連携した授業づくり」を専門とするNPO。企業、アーティスト、NPO等との協力により、新しい授業実践開発を行う。教科教育、環境保護、国際協力、食育、メディアリテラシーなど様々な授業の開発に注力。教育学部、NPOの強みを生かした、専門性、公平性の高いプログラムを開発・実践し、企業のCSRとしての教育貢献活動を支援している。学校・企業・学生を結んで「誰もが教育に貢献する社会」を目指して活動している。
企業教育研究会

広報・IR室 エキスパート 奥村 康子

「データをめぐる謎を探れ!」は千葉県船橋市の小学校にご協力を得て3回の検証授業を行い、その際の児童の様子や先生方のご意見を反映しながら完成させました。教材の信頼性は確かですし、子どもたちが楽しみながら勉強できる教材になっています。是非ご利用ください。出張授業もご興味あればお声がけください。お待ちしています。

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