

グッドデザイン賞を受賞した「なやさぽ」のデザインプロセス 幅広いデザインを共創することで開けた世界とは?
日鉄ソリューションズ株式会社(NSSOL)が手がける、従業員による自発的な悩みの解消を支援するキャリア支援ツール「なやさぽ」が、2024年度のグッドデザイン賞を受賞しました。
NSSOLとフラーは共同でデザイン領域のリニューアルを進め、ブラッシュアップを実現。プロダクトにとどまらないさまざまなデザインを共創し、デザイン完成後もプロダクトのさらなる成功に向けた伴走を続けています。
グッドデザイン賞を受賞した「なやさぽ」のデザインの裏側で、両社の責任者・担当者はそれぞれどのような想いで実際にプロジェクトに向きあい、取り組んでいたのでしょうか。「なやさぽ」のデザインプロセスや共創によって見えた世界について、双方のキーパーソンに聞きました。(敬称略、肩書等は取材時点)
なやさぽについて

「なやさぽ」はNSSOLが2022年10月に公開した社員の悩みを整理し深掘りすることで解決に導くチャット型の業務支援サービスです。「身近な人間が仕事に悩みを抱えて辞めてしまった」という事業企画者の経験をきっかけに生まれました。
日本国内で転職市場の活発化や人材不足などが加速し、従業員のエンゲージメント向上施策の重要性が高まる一方、大きな課題となるのがエンゲージメント低下を招いている“真因”の特定です。
社員の状態をツールで把握しようとする場合、社員の主体的な協力を得て本心を聞き出す点に難しさがあります。
一方、「なやさぽ」は、社員に安心して使ってもらえるようにするため、相談相手として会社や人を直接想起させない犬のキャラクターを登場させるなど、ユーザーファーストの思想をUIUX設計に大きく反映。「整理と内省ができること」「会社に知られたくない相談は匿名で利用できること」で社員にとってメリットがあり自ら利用したくなる工夫をこらしており、結果として実態を正確に把握できるようになっています。
変化が激しく仕事の悩みを抱える人が非常に多い現代において、少しでもその不安感を軽減することで社会に貢献していこうと取り組んでいます。
日鉄ソリューションズ株式会社 原田 大輝(流通・サービスソリューション事業本部 グループリーダー)
プロフィール:2007年日鉄ソリューションズ株式会社に入社。人材領域のアプリケーション企画・開発、ディレクター業務に従事した後、これまでの業務経験から従業員の悩みを解決するサービス「なやさぽ」を考案しプロダクト責任者を務める。産学連携によるキャリア及び人事領域の共同研究も実施している。
フラー株式会社 櫻井 裕基(取締役CDO兼デザイングループ⻑)
プロフィール:1989年生まれ。新潟県出身。国立長岡工業高等専門学校卒業、千葉大学工学部デザイン学科卒業。2012年に共同創業者としてフラーに参画。「NHKキッズ」(第13回キッズデザイン賞受賞)、「なやさぽ」(2024年度グッドデザイン賞受賞)など数多くの案件を担当。現在は取締役CDO兼デザイングループ⻑(最高デザイン責任者 Chief Design Officer)。長岡造形大学非常勤講師、千葉大学非常勤講師も務める。ユメは世界一働きやすい会社を創ること。
フラー株式会社 原 智美(デザイナー)
プロフィール:事業会社でWEBデザイナーとして、アプリ開発会社でUIデザイナーとして勤務した後、2020年4月フラー株式会社に入社。フラーでは主に、アプリのUI/UXデザインやWEBサイトのデザインに従事。新潟本社に勤務。関西出身。
受賞は「サービスコンセプトそのものが評価された」

――ご担当されてきた業務や「なやさぽ」での役割についてお教えください。
原田:日鉄ソリューションズの原田です。
新人の頃から、自社のHR系システム開発やお客様のHR系新規事業の開発支援を担当してきました。
その後、当社の新規事業計画に立候補し「これまでの経験を生かしたものを」と今回の「なやさぽ」を企画。フラーさんとの取り組み含め、プロダクトオーナーとして事業を推進しています。
櫻井:フラーCDOの櫻井です。
「なやさぽ」には「デザインにもっと力を入れていきたい」というリニューアルのタイミングでお声がけいただきました。最初の走り出し、特に諸々を整理する段階からご一緒させていただき、実際にデザインを進めていく段階ではメインデザイナーを務めた原のレビュアーとして参加しました。
原:フラーデザインマネージャーで「なやさぽ」のデザインを担当した原です。
櫻井と一緒に状況を整理するところからお手伝いし、その後、UI起こしや体験設計から担当させていただきました。ロゴやキャラクターなど、サービスにおける具体的な見た目の部分をNSSOLさんと共に作っています。
原田:走り出しの頃がなんだか懐かしいですね。「なやさぽ」の体制としては、フラーさんから櫻井さん・原さんを含めてデザイナー3名、ディレクター2名をアサインいただき、日鉄ソリューションズからは私とデザイナー1名、開発チームが6名という体制でした。

――「なやさぽ」が2024年度のグッドデザイン賞を受賞しました。あらためての所感をお聞かせください。
原田:素直に嬉しいですね。フラーさんから「ぜひ出した方がいいのでは」とご提案いただき応募に踏み切りました。
特に印象に残っているのがグッドデザイン賞の評価コメントです。自分たちが「なやさぽ」において大切にしている理念が伝わったことで受賞につながり、サービスコンセプトそのものをきちんとご評価いただけたことに感激したことをよく覚えています。
評価コメント:
「なやさぽ」は、日本の多くの企業が直面する離職率の増加、バックオフィスおよびマネジメントの業務負荷の軽減に対して有効なサービスである。社員のメンタルヘルスをサポートすることで、離職の大きな要因であるストレスや人間関係の問題を早期に解消し、定着率向上に寄与。オンラインでの1on1の壁打ちによって、社内の人事や管理職の負担を軽減し、問題解決の効率化を促進。メンタルヘルスケアのアウトソーシングにより、バックオフィスの業務負荷を削減している。企業全体の生産性向上と働きやすさが求められる昨今、このサービスは企業の持続的且つ合理的な成長の一助となる取り組みだろう。
(グッドデザイン賞受賞ギャラリーより引用 https://www.g-mark.org/gallery/winners/23828)
櫻井:グッドデザイン賞はそのプロダクトがどう社会のためになるのかとういう部分をみられると僕は感じています。
その点で実際に受賞できてとても嬉しいですし、社会が少しでも良くなっていくことにデザインの力で関われる、その成果が目に見える形で出るというのは特別な喜びがあります。
それから、クレジットとしてみんなの名前が残り、みんなの頑張った証が残り続けてくれることが嬉しいです。
原田:おっしゃるとおりです。社会的に評価されている「グッドデザイン賞を受賞した」という事実は、展示会などでお客様にご紹介する際の大きな力にもなりますし、全社的にも意義があると感じています。
熱量が生み出す膨大なメモ
――「なやさぽ」が成し遂げたいミッションと、両社で共創が始まる以前に抱えていた課題や悩みは何でしたか?
原田:「なやさぽ」のミッションは「みんなが生き生きと働ける社会を作ろう」です。生き生きと働くことを阻害する要因の一つである悩みや仕事の不安を解消したい、というところから始まりました。
フラーさんにお願いする前は自社でやっていました。本当にミニマムのチームで機能や実現できることの確認に注力していた形です。
フラーさんへ依頼する直前は、サービスのコンセプトができ上がってプロダクトとして動くものがある状態でした。「このような機能があればこういう仕事の悩みや不安を解消できるのではないか」といった検証まで終わっている段階でした。
ただ、やはり世界観を実現する見た目やUXの部分で大きな課題があったので、そこを得意としているフラーさんにお話させていただきました。
具体的には、仕事の不安や悩みという、人には話しづらいテーマに関するサービスをユーザーに違和感なく使ってもらうためにはどうしたらよいか。というところからご相談していきました。

櫻井:最初に入らせていただいたときのことで良く覚えているのが、ホワイトボード型のテキスト共有アプリ上に書かれていた、「なやさぽ」のミッションや成し遂げたいことなどの膨大なメモです。
全部に目を通させていただく中で原田さんたちがこのサービスにどんな想いを込めているのかが伝わってきて、すごい熱量を感じ取りました。
僕たちとしてもぜひ良いものにしたいと思い、まずはこの膨大な情報の整理から始めました。
このプロダクトはこういうステップで回っていて、悩みに対してこういう形でアプローチしていて……といった具合に図にまとめていく作業をひたすら行いました。

櫻井:情報整理やリサーチは、ものづくりの中でも非常に重要なフェーズです。プロダクトの方向性や具体的なデザイン・機能などの可否や意思決定する上で立ち戻るべき重要な原点となるからです。
原:実際、情報整理の必要はありつつも、「なやさぽ」としてやりたいことが明確に固まっていたので、フラーとしてどこへ向かってサポートさせていただくべきか、すぐに掴むことができました。
こういった状況・情報整理やリサーチの部分に時間をかけることについて、ご理解いただけたことがとてもありがたかったです。
原田:我々もシステム開発をする中で最初のキャッチアップの重要性をよく理解しているので、新しくプロジェクトに入られるフラーさんには色々インプットしていただきたいと思いました。
ただ、原さんは時間をかけたとおっしゃいましたが、我々としては、膨大な情報を短期間で素早くまとめ、「なやさぽ」の意図をしっかり読み取っていただいたという印象でした。
その上で改善を提案してくださったので、我々としても「フラーさんは意図を理解した上で進めてくれているんだな」という安心感につながりました。
もちろん、クライアントさんによるとは思いますが、今回の場合はフラーさんに情報整理の段階から入っていただき本当に良かったと思っています。
櫻井:フラーが得意とする領域でもあり、お力になれるとても良いタイミングでお声がけいただいたと感じています。
逆に我々としてありがたかったのは、原田さんの決定がものすごく早いことです。基本的になんでもすぐに決めてくださいました。
原田:数多くのお客様とプロダクト開発を手がける中で、先方の決定が早いことのありがたさはよくわかっているので、絶対持ち帰らないでその場で決めることを強く意識しています。
原:ご自身が「これでいく」という覚悟をしっかりお持ちなのだなと感じます。チームとして質問や提案もしやすい雰囲気だと感じています。
原田:そういっていただけると嬉しいです。メンバー各々が自分の仕事に集中できるように色々調整しています。
悩みに寄り添うために必要なデザインを
――デザインにあたって特にこだわりたかった要素は何でしょうか?また、そのこだわりを実現するために、どのようなプロセスや取り組みがありましたか?
原田:いちばんこだわったのは、悩みや不安に関わるネガティブな相談をするサービスだからこそ、そのネガティブに染まらずに前向きに使っていただけるようデザインすることです。
そのこだわりを実現するため、キャラクターとして犬の『バディ』を作ったり、全体を明るい黄色をイメージしたデザインにしたりと、たぶん我々が自分たちでは全然思いつかなかっただろう形でフラーさんが仕上げてくださいました。
櫻井:ここはフラー側としても特に注力した部分です。実際にバディのデザインを手がけた原さん、いかがでしたか?

原:ユーザーさんによる情報入力はチャット形式が良いかもとフラー内で話が出たとき、その相手として人を感じさせるべきかどうかという議論になり、当初私は「人を感じさせるべきではない」と答えました。相手が人だと意識すると正直に書けなくなる部分があるのではないかと思ったからです。
櫻井:そうですね、ここは完全にクローズドな場所だから無機物みたいなものがいいのではないかというのを話していて。でも、たしかそこから原さん自身が……。
原:そうです、私が覆し始めました(笑)
だんだんデザインを具体的にしていくうちに、「こんなに冷たくていいのだろうか」と気になってきました。
じゃあ人じゃなくて、ロボットでもなくて、人間が悩みを吐き出していいと思える存在ってなんだろうと探し始めて、ひたすらいろいろ調べて行き着いたのが「犬」でした。とあるウェブのコラム記事で「言葉で返事してくれるわけじゃないけど嫌なことを全部犬に愚痴っちゃう」といった話を読んだことがありました。
それってなんだか想像がつくと感じましたし、今回の「なやさぽ」はそれに近いところがあると直感しました。
犬種は頭の良いボーダーコリーをイメージしました。話せて、聞いてもらえて、賢そうで、安心感もあって温かみもあって、希望がぜんぶ叶えられると。
その案をお示ししてみたところ、NSSOLさんの中でもプロダクトに動物が出てくる案が挙がっていたのです。
原田:ユーザーの分類の中で、犬タイプやライオンタイプと分けるのはどうだろうという話がありました。
原:その下地もあってのことと思いますが、すんなり受け入れてくださいました。
原田:いちばんの理由は、なんといっても原さんの説明にすごく納得感があったからです。
単に「ワンちゃんにしてみました」のような理由だけでは「本当にそれでベストなのかな」と思ってしまっていたでしょう。
しかし、「人間だと相談しにくいけれど、ワンちゃんなら自分の悩みを言いやすい。かつ、たとえば陽気なゴールデンレトリバーはすごく寄り添ってくれるイメージはあるけれど相談するというニュアンスじゃなくなる。だから、頭がいいボーダーコリーなんです」と言われたらもう、「たしかに!」と。
納得感があってキャラクターとしてもかわいいので。この話は商談でもよく使わせていただいています。実際、お客さんにお話しすると「は〜、なるほど〜!」とご納得いただけます。
櫻井:実はプロダクトでキャラクターを作ることについて個人的にはとても慎重なタイプです。とりあえずキャラクターがいた方がかわいいから作ってみよう、というスタンスであれば、デザイナーからの提案の時点でストップをかけます。デジタルプロダクトは機能がなければ意味がないからです。
一方、なやさぽは、定期的に開くことを指示されるタイプのツールではありません。各々が自分自身の意思でやっていくものです。だからこそ、なんだかんだで気軽かつ自発的にアプリを開きたくなる距離の近さが必要です。
そこに対して、無機物では親近感が足りないという課題感から今回のようなキャラクターを配置するのはとても意味と機能があるし、キャラクター自身にも命が吹き込まれます。そしてそれにより、サービス全体の色合いとセットでグッと世界観が出てくるわけです。
原田さんがお客様にご紹介する際にもご活用くださっているという話は、まさにキャラクターが機能している好例で、今回の判断が間違っていなかったことの証明にもなったと感じました。
原田:ロゴもこだわっていただき、相当な数のパターンを作っていただきました。

原:英語にするかローマ字にするかといったところから色々と試行錯誤しました。
櫻井:カタカナで「サポ」にすると悩みの方がすごく目立ってしまうので、ひとまとめ感を出すために、「なやさぽ」という一つの言葉にして、とにかく「悩み」という言葉の「悩み感」を無くすために調整しました。
原:文字の跳ねの部分も、ワンちゃんのしっぽをイメージしてピヨっと跳ねる感じにしました。
原田:HR系のサービスは無機質な手触りで、使う社員にとって良いかどうかも二の次、のようなものが少なくないので、こういったデザインが差別化につながっている実感はあります。
櫻井:原田さんがおっしゃったようにHRテック系は、どうしてもツールの優先度的に管理する企業側に向けて作られているものが多いです。しかし、それだと本来の価値は発揮できません。
一方、「なやさぽ」はとにかくユーザーのため、つまり「これは現場で今悩んでいる人のためのツールなんだ」という考えを徹底しています。今回の開発において、そこがすごく印象に残っています。
原田:「なやさぽ」は「悩んでいる人を救いたい」から始まっているプロジェクトであり、基本的に匿名で回答するツールです。商談をしていても「誰の回答なのか知りたい」とよく言われます。気持ちはわかるのですが、社員からすればすべての回答が記名式になってしまったら、そもそも本音を言えなくなってしまいます。
一方で今すぐに助けを求めたいといったアラートを上げたい社員の方もいますので、一部の質問だけは会社に伝わるような仕組みも用意しており、会社によって選択が可能となっています。
櫻井:個人がわからない状態でも、それぞれの気持ちを拾い上げることで組織全体としてこういう意見があると把握できる。そこが「なやさぽ」の良さです。
原田:おっしゃる通りです。リリースしてデータが集まったので事実として言えるのですが、匿名でも会社の課題はしっかり見つかります。
特に「なやさぽ」は、単純なエンゲージメントサーベイと違って“悩みそのもの”を聞いているので、表面的なものではない意見が集まります。
たとえば「業務負荷が高い」だけではなく、「プレッシャーが特に強い」であったり、「上司と部下の対話がうまくいっていない」といった一段深い裏の事情のようなところも見えてくるため、他のツールと比べてそこは強みになります。
このように、ユーザーファーストで集まった悩みから組織課題の分析をし、その情報が結果的にお客様である企業にプラスになる、という循環が大切なのです。
「それはわかる、だがしかし……!」と一歩踏み込む

――今回の共創にあたっては、プロダクト本体からチラシ、販促物、展示ブースのデザインなど多岐に渡る製作物を双方で手がけました。このような形でワンチームで広範なデザインに取り組むメリットはどこにあるのでしょうか?
原田:コンセプトを理解、共有している状態で手がけることで、他の製作物にも圧倒的な一貫性が出ます。そこがワンチームの良さです。
こちらとしては最初「こういうことまでお願いしても大丈夫ですか……?」という感じでしたが、気づけば営業資料から「ブースデザインや設置作業までできますか?」といったことまでフルセットでフラーさんにお願いしました。
櫻井:一般的には「ポスターは作れないです」「ブースのデザインはさすがに専門外です」という会社さんも多いかと思うのですが、フラーとしてはやらせていただけるならぜひというスタンスです。
フラーは最初から最後までちゃんと丁寧に作り切ることを大切にしていますので、今回そういう意味でさまざまな展開を「なやさぽ」というブランド全体を通して手がけることができたのは、我々としても達成感があります。そして、全部任せていただけたことが嬉しかったです。
原:個人的には、デジタルを飛び出して展示ブースというリアルの場でのデザインまで任せていただけたことがいちばん感慨深かったです。
いくつもの展示ブースのデザインを手がけさせていただく中で、周りの会社さんからも「あの黄色い犬のところですよね」と覚えていただき、インパクトを残せた実感があります。
櫻井:実際に会場でもブースの評判は良かったです。「参考のために写真撮らせていただいていいですか?」と他の会社さんからお話をいただくこともありました。
原:嬉しいですよね。こうして繰り返し色々と手がける中で、その度にたとえば営業さんからのフィードバックだったりお客さんの反応を反映できるのがとてもプラスになりました。重ねるたびにもっとより良いものができる、という好循環が生まれました。
原田:相談や提案をすれば、やれる範囲でこのように柔軟性やスピード感を持って一緒にやりきってくださるのが、フラーさんと一緒にお仕事をしてとてもありがたいところでした。

――一連の共創の中で、特に大切にしたことは何でしょうか?
櫻井:なにより共創の土台をまず原田さんがしっかり作ってくださったことが大きかったと思います。
そこに我々も丁寧にアウトプットで応えていく。そうすることで原田さんとしても我々に任せてくださる範囲が増えていく——。そういう流れが出来上がったことが良かったと、振り返ってみて感じます。
原田:こちらが言ったことをただ実行に移すだけですと物足りないですし、とはいえ思想を変えるくらいのことを言われても困る部分があります。
共通した理念を持ちながら、その中で自発的・自律的に動いていただける関係性が良いと思っており、フラーさんとはそれを一緒に実現できたのではないかと思います。
これには絶妙なバランス感覚が求められるのですが、フラーさんは「それはわかる」と、前提やこちらの事情をしっかり汲んだ上で「だがしかし……!」と一歩踏み込んだご提案までしてくださって、私たちとしてはとてもありがたかったです。
櫻井:我々は昔から率直に言うことを大事にしています。言われたものを作るだけのものづくりは意味がないですし、ユーザーさんのためにもならない。多少ぶつかってでも意見を言いに行く、議論するのは大事だと思っています。
原:結論がどうなるにせよ、「だがしかし」で一回話してみるのは大切です。
「なやさぽ」の広がりと未来

――今後については、どのような展開を見据えていますか?
原田:ユーザー向けの改善と会社向けの改善、その2軸があります。
まずユーザー向けには、より使いやすく、悩みの解決により役立つような形での方向を考えています。
現在の「なやさぽ」は様々な仕事の悩みに対して支援する内容になっていますが、特に多い悩みの一つが「キャリア自律」「キャリア形成」といった領域です。自身の強みや価値観が分からなかったり、目指すキャリア目標が見つけられず不安を抱えている人が多いのが実情です。
そういった方に対して、「なやさぽ」をキャリア自律向けにカスタマイズし、キャリア研修と組み合わせて使うといった進化も可能性の一つとしては考えられると見ています。
企業向けには、社員の仕事の不安・悩みや組織の課題が「なやさぽ」でどんどんわかるようになったその先、わかった結果に対してどうアプローチしていけば良いのかまでお示しできるようにしていけば、より価値のあるサービスになるのかなと考えています。悩みの出口を含めて提供する、といった形です。
我々が想定していなかったような使い方をしてくださっている方々がいらっしゃるのも、とても興味深いところです。
例えば、人事や上司、キャリアカウンセリングといった面談の前に「なやさぽ」を使うことでより良い時間にできるよう工夫されている会社さんや、1年目や3年目の研修で使ってその結果を活用している会社さんがいらっしゃったりします。
我々としてもそのニーズに対して何か提供できないかと、お客さまと一緒に作る・共創するという形でこれからのことを考えています。
――フラーと共創しての率直な感想を教えてください。
原田:フラーさんと共創して良かったのは、やはり一緒になって進められる感触があること、そしてメンバーの皆さんが自分ごととしてサービスを捉えてくださっていることです。
フラーの皆さんからは「このサービスを自分の手がけるプロダクトとして、もっと良くしたい」という当事者意識をすごく強く持ってくださっているのを感じます。これは本当にありがたかったです。
櫻井:まさに、そういった当事者意識を持つことがフラーの価値観です。
原:私たちとしても、そういった気持ちを発揮して色々とご提案できるチームに入れていただいたことはすごく嬉しく、だからこそとてもやりがいがあります。これからもどうぞよろしくお願いします!