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2023-07-21 DX
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「ChatGPT使ってみた」社内ハッカソン開催!見えてきた生成AI活用の可能性

NSSOLでは、2023年4月から5月にかけて、社内でChatGPTの活用方法を検討する社内ハッカソンをシステム研究開発センター(以下「シス研」)が主催し実施しました。約4週間という短いハッカソン期間でしたが、様々な職種のメンバーから構成された13チームが参加しました。本記事では、ハッカソンのイベントレポートとして、イベントの詳細や企画者・参加者の想いをお伝えします。

インタビュー話者

  • システム研究開発センター 山田 一宏さん
  • DX&イノベーションセンター 新井 貴史さん
  • ITサービス&エンジニアリング事業部 山本 智子さん

─今回ハッカソンはNSSOLの研究所であるシス研が主催しました。山田さんはシス研に所属されていますが普段はどんな業務を担当されていますか?

山田:私が所属しているシス研の研究グループでは、ChatGPTが公開された2022年11月のはるか以前より、大規模言語モデル(LLM)をはじめとした自然言語処理の業務適用に関する技術知見を蓄えていて、実際にいくつかのソリューションを公開しています。私はそのグループで主にAIシステムのアーキテクチャに関する研究開発や事業支援等をしています。

山田さんと、当日運営を担当した自然言語処理研究グループメンバー

─今回のハッカソンのど真ん中の研究をしているのですね。では、本題のハッカソンですが、まずは概要を教えてください。

山田:本ハッカソンは、「ChatGPTを活用して、自分たちが業務で抱える課題を解決できるアイデアを生み出す」ことをテーマとしました。参加者の皆さんには4週間のハッカソン期間の中で、シス研に所属する生成AIの研究員から支援を受けながら、ChatGPT活用のアイデア出しと、検証実験に取り組んでもらいました。チーム単位で応募を受け付け、最終的には13チーム26名が参加してくれました。短期間での実施という厳しい条件にもかかわらず、多くのチームから申し込みがあり驚きました。

─多くの方が参加されたのですね!やはりSEが多かったのでしょうか?

山田:SEはもちろんですが、コンサルタント、管理スタッフ、研究員、など社内のあらゆる職種の社員が参加してくれました。

アイデアソンプレゼンの様子

─みなさん、参加意識が高いですね。では、続いてハッカソンの狙いを教えていただけますか?

山田:先ほどお話しした社内業務の課題を解決できるアイデアを生み出すことの他に、社内のChatGPT活用や生成AI活用に関するリテラシーを高めることも狙いとしました。それは、現場の課題に取り組む非専門家が生成AIを活用できるようにすることが、社内外のDXに不可欠だと私たちは考えているからです。

─非専門家も活用できることが社内外のDXにとって重要なのはなぜですか?

山田:生成AIはこれまでシステム化の対象になりづらかった非定型・非ボリュームゾーンの業務にも適用可能な技術のため、社内の個々人や部署単位で生成AIを活用できる場面が多くあるからです。そのような業務に対して生成AIを適用するには、情報システム部の社員だけではなく、現場の課題に取り組むメンバーも安全・効率的に利用できるような企業内の仕組みの整備と利用者自身の生成AI活用リテラシー向上が必要です。

─なるほど。その生成AI活用リテラシーとは、具体的にどういったものでしょうか?

山田:解きたい問題を生成AIの特性を踏まえた形式で表現する力や、生成AIの出力を適切に利用する力を総称して「生成AI活用リテラシー」と呼んでいます。
利用者は、生成AIに指示文(プロンプト)を与えて問題を解かせます。このプロンプトが生成AIの特性を踏まえた書き方になっていないと解答の精度が大きく下がるため、利用者は自身が求める解答を得やすくなるようにプロンプトを工夫する必要があります。また、生成AIの出力にはハルシネーション(もっともらしいウソ)や著作権に違反するコンテンツが含まれてしまう等の問題もあるため、利用者は出力内容を利用するにあたりその適切性を判断・レビューしなければなりません。

─研究員が参加者をフォローしたのも生成AIリテラシー向上支援が目的でしょうか?

山田:はい、ハッカソンの目的は順位付けをすることではなく、あくまで社員たちのリテラシーを高めることでした。そのため、生成AI領域を担当する研究員がメンターとして参加者をフォローしながら、参加者の気づきが互いに共有できるように、環境の利用方法や解決策などのやりとりをオープンなチャットスペース上で進めていきました。
シス研としても、実際に現場で活用するにあたっての生の課題を知っていきたいと思っていたので、参加者のみなさんのちょっとしたつまずきは大変参考になりました。

─参加者にとって研究員のフォローは心強かったと思います。では、利用者が安全・効率的に生成AIを活用するには企業にどんな仕組みが必要になりますか?

山田:現場の非専門家が利用する場合でも、様々なリスク(法令、セキュリティ等々)を低減しつつ実験・検証を効率的に進められる仕組みが必要です。前述したように、生成AIの出力には著作権侵害コンテンツや脆弱性のあるコード等が含まれうるという問題がありますし、悪意あるプロンプトを入力してシステムを不正に操作するプロンプトインジェクションという攻撃手法も問題になっています。

利用者が安心して生成AIを利用するためには、これらのリスクを低減する仕組みづくりが課題となります。また、車輪の再発明を防ぎ業務改善を加速するために作成したプロンプトやアプリのコード等を含む生成AIの活用事例を共有するコミュニティや仕組みづくりも課題になります。

NSSOLでは、社内利用ガイドラインやリファレンスアーキテクチャの作成等をシス研含む技術本部一体で行っています。
シス研の活動の一つには、新しい技術を使い倒していくためのルール、ポリシーを作り上げていくことが含まれています。現実の制約と追及すべき技術的メリットの落としどころをどう整理するかを議論することは、社内だけでなく、実際にお客様への活用方法を提案するにあたっても重要な素地になったと考えています。

アイデアソンプレゼンの様子

─ありがとうございます。ハッカソンの話題に戻りますが、発表会や選考はどのように行ったのでしょう?

山田:各チームの発表については、社員なら誰でも参加できる「成果報告会」をオンライン上で開催しました。そこでは全チームがプレゼンを行った後、参観者全員に「社内外に成果をアピールしたい」と思えるチームを3つまで投票で選んでもらいました。

─その投票もオンラインですか?

山田:はい、その場で結果が出て、4チームが優秀チームとして選ばれました。成果報告会は時間の関係もあり簡易なプレゼンだったので、後日「最終成果報告会」として優秀チームにもう一度詳細なプレゼンをしてもらいました。この時は業務時間外でしたが、参観者が70名近く集まり、社内のハッカソンへの関心の高さを感じましたね。

優秀チームとして選ばれた4チーム7名(1名欠席)

─優秀チームに選ばれた山本さんと新井さんにお聞きします。お二人が応募したきっかけを教えてください。

山本:私はユーザーのデジタルワークプレイスを提供する事業部におり、そこでは、VDI/DaaSとその端末やMicrosoft365、監査、セキュリティソリューションなどを統合的に提供しています。そのため、ユーザーがGPTやMicrosoft365 Copilotなどの生成系AIを活用する時に、現時点ではどんな活用ができて、さらなる利活用をするにはどのようなサービスや機能があれば喜んでもらえるかを探るために参加しました。

山本さん
プレゼンテーマは「かっこいい技術を使えない私でもGPTに業務のお手伝いしてもらってみた」

新井:私はデータ活用に関する企画・上流支援、案件実行を行う部署で、コンサルタントをしています。近年の生成AIの盛り上がりを受け、自身の関連する業務の多様な分野で生成AIが使われ、業務が高度化する未来に可能性と危機感を感じていました。生成AIを自身の業務や事業を高度化するための武器として活用するための引き出しを増やしたいと思っていたところ、同様の課題感を持つ同僚から声をかけてもらいチームで参加しました。

新井さんが所属するチーム:DXエキスパ(写真右が新井さん)
プレゼンテーマは「新規ソリューション提案書作成」

─お二人はハッカソン参加前に、生成AIを業務で利用した経験はありましたか?

山本:私は利用したことはありませんでした。

新井:私は大きく2つの観点で生成AIを利用していました。1つ目は、プログラミングで実装したいイメージがある場合に、検索エンジンを利用するのと並行して、生成AIに依頼して作成してもらったサンプルコードを参照していました。非常に業務効率化に繋がっていたのですが、時折あったら嬉しいが存在しないAPIを使った実装を回答するのでその際はとても悲しい気持ちなりました。2つ目は、業務で関わる特定業界の専門用語や業務の概観、また私が把握できていない技術的な概念など自身の引き出しのない知識を得るための第一歩として、ChatGPTを利用していました。

─実装したアイデアはどのようなものだったのでしょうか?

山本:ChatGPTにメール対応業務のアシスタントになってもらいました。メールの内容をプロンプトとしてChatGPTに投げると、内容から返信要否を判断したうえで返信メールの文章のたたき台を作成してくれます。また、メールに記載されている受信者への依頼事項候補のリストアップもしてくれます。もう少し工夫すると、ChatGPTが実行可能なタスクについてはそのまま代行してもらうことも可能です。

新井:新規ビジネスの立ち上げやソリューション開発の高度化・効率化を目的に、企画書のひな型整備とChatGPTのプロンプト集の作成を行いました。ひな型整備による作業計画立案時間の短縮と、実際の市場調査や分析をChatGPTに任せることによる作業負荷軽減により、初期調査に必要な期間を合計0.5人日弱までに削減し、工数削減やソリューション探索過程のPDCAサイクルの改善を目指しました。

  • 数値参考:※作業計画時間(5人日→0人日)、初期調査コスト(20人日→0.5人日)

─山田さんはお二人の発表についてどう思われましたか?

山田:山本さんの取り組みは、これまで自動化・システム化の対象になりづらかった非ボリュームゾーンかつ非定型な業務をターゲットとした点がとても良いと感じました。ChatGPTはこれらの業務に対しても柔軟に適用可能な点がこれまでの技術との違いだと考えていますので、現場の方々自身がChatGPTを用いて課題を解決するというモデルケースになったのではと思います。

新井さん達の取り組みは、ChatGPTの長所でもあり短所でもある「広く浅い知識をベースにそれらしい文章を生成する」という能力をうまく活かして企画書の作成を効率化するものでした。あまり詳しくない分野に関する資料をゼロから作るのは非常に大変です。でも、内容が薄かったり多少の誤りを含んでいたりしてもベースとなるものさえあれば、それに肉付けしたり修正したりしながら効率的に資料を作成できますので、とても良い適用例だと感じました。また、実際に業務に組み込んだ際の改善効果を定量的に見積っていた点も非常に良かったですね。

─優秀チームは4チームあったと聞いていますが、他のチームはどのような発表だったのでしょうか?

山田:社内に蓄積された技術情報の活用、データの名寄せへの活用、ビジネスメタデータ探索への活用などです。

優秀賞獲得チームであるシス研DLGのメンバー
プレゼンテーマは「GPTを活用した名寄せ/メタデータ探索」
優秀賞を獲得した飯島さん
プレゼンテーマは「社内情弱の俺を救いたい」

─なるほど。興味深い内容ですね。山本さん、新井さん、ハッカソンに参加した感想はいかがでしたか?

山本:AIもコーディングも初心者、という立場で参加しましたが、実際に参加してみると簡単な活用はできるものの、より利益につながる利活用を実現するには、AIの知識やローコード環境が必要だと感じました。また、試行を重ねる中で無意識に機密情報や著作権侵害が含まれたものを生成してしまう恐れも感じました。これらハッカソンで得たことをブレイクダウンしていき、ユーザーが安心して簡単に生成AIを利活用できるようなデジタルワークプレイスの提供につなげることができたらと考えています。

新井:参加しての学びとしては、現時点での「企画業務における生成AIの活用方法と限界」が把握できたことです。市況感の把握、簡易なレポートの作成、課題のアイデア出し等は、プロンプトを工夫しながら生成AIに任せることで、不慣れなコンサルタントよりも高いアウトプットを出すことができると実感しました。一方、プロンプトを工夫しても一般的な目線からの回答になってしまう傾向があり、企画の意思入れや詳細な調査は人力が必要という現時点での限界も知ることができました。今後は、ハッカソンの成果物を部内展開することで、会社としての企画力向上に寄与したいと考えるとともに、生成AIを組み込んだソリューションの企画にも貢献したいと考えています。

─山田さん、最後にハッカソンを通じて得たものについて今後の研究にどう活かせそうでしょうか?

山田:まず、本ハッカソンを通じて生成AIに高い関心を持つ方々とのつながりができたことが大きな成果だったと思います。今後もこのコミュニティをさらに広げていき、情報共有や議論を活発化させていきたいと考えています。また、本ハッカソン用環境の構築や参加者の取り組みから、業務課題に生成AIを適用するうえでのノウハウや課題がいくつも得られました。今後はそれらをもとに、全社における生成AI活用やお客様の課題解決につなげていきたいと考えています。

─ありがとうございました。

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