システム研究開発センター 越智 隆浩さん(左)、園部 勲さん(右)
IoT、クラウド、機械学習といった技術の進歩により、自ら学習し、私たちの生活やビジネスをサポートしてくれる自律型マシンが、当たり前にある時代になってきました。AI技術による知性とロボティクス等による自律性を兼ね備えたスマートマシンです。システム研究開発センター(以下、シス研)でも「Cogmino(コグミノ)」「Lumisis(ルミシス)」を開発。両スマートマシンの開発に携わる越智 隆浩さん、園部 勲さんに話を伺いました。
概念検索システム「Cogmino」
園部:Cogmino(コグミノ)もLumisis(ルミシス)もナレッジワークの「現場」を支援するスマートマシンとしてシステム研究開発センターで開発してきました。まずは、それぞれの紹介をしたいと思います。
越智:Cogminoは組織ナレッジの活用を支援する概念検索システムです。今ある一般的なキーワード型情報検索エンジンとの違いの一つは、抽象的なキーワードから検索を始められ、徐々に関連する概念へと検索範囲を自動で広げて具体化していけ、効果的に目的の情報を発見できるというところです。
園部:利用シーンでいうと?
越智:例えば、プロジェクトで、生き字引のようなベテラン社員が退職したことで昔のことを聞ける相手がいなくなってしまった、異動先の新しい業務の専門用語がわからない、あるいは業務の全体感がわからないなど。その時に誰かに質問したいのだけれども、誰に何と聞いたらいいのかわからない、何でもかんでも質問することは気がひけるという、そういう「困った」を支援するシステムです。
園部:「漠然と何か知りたいのだけど、具体的にどう行動したらいいかわからない」といったもやもやは誰にでも経験があることでしょうね。
越智:そうです。Cogminoは漠然としたキーワードを入力すると概念的に近い関連ワードも含めて自動的に検索し、検索結果を業務分類に基づいて整理した結果を提示してくれます。具体的には下の図をみていただければご理解いただけると思います。
園部:とても直感的でわかりやすいですね。検索したい概念についての言い換えワードを、Cogminoが自動補完してくれるのですね。
越智:その通りです。人間が記述した自然文には専門用語や略称を用いるなど表現の揺らぎが存在します。一般的な検索エンジンでこのような情報を探す場合、キーワードをあれこれと変えながら試行錯誤に苦労することがありますよね。
園部:確かにそうですね。それに、経験値が低い場合はそもそも言い換えワードを思いつけず手詰まりになることも多いと思います。
越智:そうなんです。Cogminoはそういった経験の浅い人であっても、頭の中に浮かんだ概念から直感的に目的の情報を発見できるようにしてくれます。
園部:概念構造や業務分類パターンは事前に機械学習をさせるのですよね。
越智:そうです。事前にCogminoに大量のドキュメントを機械学習させると、キーワードごとに関連ワードを自動的に学習します。また、タグ付けも自動的にしてくれるので、学習した情報を業務の観点で自動的に整理して、ファセット・ナビゲーションの形で情報の絞り込みを補助してくれます。ベテランにとっては、Cogminoが勝手に自動で学習して、それを検索結果に提示してくれると楽になりますし、ベテランではない社員もCogminoを使うことで「良く知らないから」と及び腰になっていた業務もできるようになるなど、それぞれの社員、ひいては組織全体にメリットがあります。
マネジメント支援AI「Lumisis」
園部:Lumisisは、プロジェクトのリーダーが日々行っている業務を代行するAIです。具体的にはチームのタスク管理と、メンバーの書いたタスク管理票(チケット)のレビューを自動実行します。レビューに関しては、動画をみていただくとよくわかると思いますのでご覧ください。
越智:リーダーに着目したのはおもしろいですね。
園部:プロジェクトリーダーは、メンバーからあがってくるタスク管理票に目を通して何をすべきか判断しなければならないのですが、現実にはメンバーのタスク管理票に判断に必要な情報が書かれていないことが度々あり、その都度、メンバーに要点をヒアリングしているというコミュニケーション上の問題があることがわかりました。
越智:それは時間のロスですね。
園部:ただでさえ多忙なリーダーですので、判断ではなく、タスク管理票のレビューに時間を取られるのはプロジェクトにとって大きなマイナスです。Lumisisはタスク管理票をリーダーに代わってレビューします。具体的には、タスク管理票を書くと、下図のようにいくつかの観点で記述レベルを評価して、返してくれます。
また、タスク管理票はただのTODOリストではなく、課題対応や意思決定の経緯が記された、後々利用されるナレッジであることも重要な点です。ナレッジの活用をCogminoのタスク管理票検索によって支援し、ナレッジの質の向上をLumisisのレビューによって支援することで、ナレッジベースの入出力両面をトータルで高度化できるという関係性になっています。
越智:リーダーによってレビューの観点が違ってきますが、それもLumisisが自動で学習してくれるのですよね。
園部:そうです。各リーダーにとって、どんな文章が良くて、どんな文章が悪いと判断しているのかをLumisisが自動的に機械学習して、それを元にレビューします。インターフェースとしては、タスク管理システムにメンバーがタスク管理票を登録すると数秒でLumisisからレビュー結果が、チャット形式で返ってくるようにしました。
越智:レビューしてくれるというのがポイントだし技術的にも新しいところですね。あとチャット形式というのが手軽だし、提出してすぐにレスポンスがあるので、メンバーは合格するまでゲーム感覚で何度もレビューに臨んでくれそうですね。リーダーに何度もダメ出しされると落ち込みますが、AIにダメ出しされると逆に燃える。おもしろいなあと思います。
組織を強くするにはどうすればいいのか。
~「現場」にこだわる研究開発 CogminoとLumisisが生まれた背景~
園部:先ほど、組織内の情報格差の解消が重要であるという話がありましたが、そういう経験があるのでしょうか。
越智:私はもともとシステム運用の自動化、今で言うRPA(ロボットによる業務自動化)みたいなことを研究領域にしてきました。自動化がきくのは定型作業ですから、研究しているうちに、そもそも自動化って限界があるなと思い始めたんですね。
園部:定型作業は自動化で効率化できる。さらに効率化を進めるには非定型業務をなんとかしないとならないということですね?
越智:そうです。核となる人がしている業務は非定型が多くて、ここを改善しないと業務全体に効果が出ないなと思い至ったんです。そこを解決する手段としてCogminoにいきつきました。
園部:その解決する手段として「検索」に思い至ったのはなぜですか?
越智:人というのは物事を「知る」、「把握する」ことで初めて「検討する」、「決断する」といったアクションができます。だから、プロジェクトメンバー間に情報の格差があると、特定の情報を持った人しか仕事ができないという状況に陥りがちです。そこで、人づてに聞いた情報や、特定の人が経験ベースで知っていたりする情報を、ITで共有して情報格差をなくすような支援があればと思いました。
園部:なるほど。検索機能に着目したというよりは、人や組織のマインドセットや組織の動きかたに着目したのですね。
越智:そうです。Lumisisはどういった発想から生まれたのですか?
園部:私たちは2016年に研究を始めたのですが、最初は技術ありきで研究テーマを模索しました。ディープラーニングによる画像認識は産業利用が進んでいた時期だったので、その次にくる技術トレンドは何かと考えたら「自然言語処理」だと。でも、技術ありきで機能のアイディア出しをしたら、我々のアプローチが間違っていて現場に持って行ったらアイディアが全部ボツになったり、要件定義のように現場にヒリングしてもありきたりのアイディアだったり、ITで実現が難しい課題だったりでなかなか研究テーマを決められませんでした。
越智:それからどうやってLumisisにたどり着いたのでしょう。
園部:現場主義です。でも、現場をただ観察することではありません。技術的なアイディアを現場に打ち込むことを通じて、現場と技術の両面について学びを得ていくことです。例えば、ボツになった理由から現場の価値観や本当の課題についての気付きを得たり、実用上の技術的な課題に気付いたりすることを足掛かりに、次のアイディアを生み出し、また打ち込むということを何度も繰り返すことで現場知識と技術応用力を同時にレベルアップさせていきました。
越智:現場というのは、Cogminoの実験台にもなってくれた、シス研内のクラウド検証基盤の運用チームですね。
園部:そうです。1ヶ月間、観察者という第三者の目線でチームを見ているうちに、個人のタスクよりもチームという組織全体を強くするITに目を向けるのがいいということに気づきました。そして組織を強くするという観点でチーム全体をみると、実はリーダーがボトルネックになっていることがわかってきました。リーダーがボトルネックになりやすく、かつITで解決できうる業務に、レビューとタスク管理がありました。レビュー自動化は当初目的とした自然言語処理技術で挑むいい題材でした。タスク管理自動化は従来型の自動化技術で解決できるものでしたが、現場の課題を包括的に解決することを最優先に、両方盛り込むこととしました。その後、Lumisisを半年で開発しました。
越智:自然言語処理といった技術ありきは一旦横において、組織を強くするにはどうすればいいかに視点を移したら良いアイディアが見つかった。
園部:そうです。そういう意味でCogminoもLumisisも組織を強くしたいという思いから生まれて、シス研の中でユースケースを考えて検証をしてきました。これからさらに磨きをかけるためにも、実際に事業をしている現場に適用したいと思っています。
越智:事業の現場でのユーザーの心理とかユースケースは研究員の私たちだけでは想定しきれません。そういったことから現在、NSSOLの事業部にPOCで導入してユースケースをつくっているところです。
園部:それは次回以降で紹介したいと思いますが、お客様との「共創」もめざしていますので、興味があればお声がけいただきたいと思います。