今回の実証実験は、グリッド技術の同分野への適用評価を行うことが目的であり、製鉄所の生産工程にグリッド技術が適用されるのは、世界初の事例となります。
大規模一貫製鉄所では鉄鉱石や石炭などの原料から高炉~転炉~連鋳の工程を経て、「スラブ」という板状の中間製品を作り、さらに圧延工程を経て鋼板や厚板の最終製品が作られます。この製鉄所における頭脳中枢である生産管理システムは、さまざまな製造設備を効率よく連携・稼動させ、全体として調和のとれた生産を行うためのもので、大規模製鉄所の操業に極めて重要な役割を果たすものです。これまでも最先端の情報技術を駆使した機能の高度化が重ねられ今日に至っています。
この生産管理システムの要となるスラブ設計システムとは、一品毎に定められた出荷製品仕様や納期などの注文情報をもとに、中間製品であるスラブの大きさや量などを設計するものです。中間製品と最終注文の双方を最適に紐付けするだけでなく、製鉄所の生産能力やコストまでを視野に入れたバランスの良い解が求められる高度な処理機能であり、現在は、高性能UNIX(R)サーバーによる一括(バッチ)処理が行われています。
新日鉄ソリューションズと日本IBMの実証実験では、このスラブ設計システムのバッチ処理にグリッド技術を適用することで、ほぼリアルタイムの計算結果出力が可能になると見込んでいます。実証実験では、Linux (Red Hat)を搭載した数台のPCサーバーを接続し、ネットワーク上に分散するコンピューター資源を単一仮想システムとして管理するグリッド・コンピューティングの標準ミドルウェア「Globus Toolkit」を基に構築します。さらに、新日鉄ソリューションズのシステム研究開発センター(横浜市)にある異機種混合のサーバー群とも接続し、組織を越えてより大規模なシステム環境の検証も行う予定です。
両社は、実証実験における処理速度やコスト・パフォーマンスの検証を本年9月までに行った後、生産管理システム等での本格的な適用を検討しています。グリッド技術の適用により短時間で計算を行う事が可能となり、より精度の高い生産管理の実現による歩留まりの向上や生産性の改善が見込まれます。
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