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2022-12-14 DX
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次世代の金融業界のあり方 日本を強くする業界横断のデータドライバー目指す

~金融業界400社が手を取り合い、社会の新たな可能性を切り拓く~

岡田 拓郎氏
一般社団法人 金融データ活用推進協会 代表理事
デジタル庁 プロジェクトマネージャー

佐藤 市雄氏
一般社団法人 金融データ活用推進協会 理事 兼 企画出版委員会委員長
SBIホールディングス株式会社 社長室 ビッグデータ担当 次長

中橋 憲悟
日鉄ソリューションズ株式会社
金融ソリューション事業本部 営業本部長

近藤 隆之
日鉄ソリューションズ株式会社
金融ソリューション事業本部 営業本部
営業第三部 第2グループリーダー

金融業界全体のデータ活用水準を引き上げるには業界横断的な組織が必要だ――。こう感じている金融業界やシステムインテグレーターの31団体が集まり、2022年6月に「金融データ活用推進協会」が設立された(2022年12月1日時点、86団体)。同協会の理事と協会設立のきっかけとなった日鉄ソリューションズ(NSSOL)の担当者が語り合った。(文中敬称略)

「オワコン」と呼ばれた金融業界、抱いた強い危機感

岡田代表理事:率直に言って、金融業界のデータ活用は諸外国や他業界と比較して遅れ気味であると思います。ほかの業界の皆さんもそのように感じていると思うのですが。

金融業界のデータ活用は、AIを活用できている金融機関と、できていない金融機関に二極化してきている、という現状認識です。AIを活用できている金融機関でも、データ活用によって部分的成功は収めているものの、事業全体のブレークスルーが達成できたかというと、そこまでには至っていない場合が多いと感じています。

データ活用が遅れていてブレークスルーできていない金融業界の現状は、特に若い世代が敏感に感じ取っています。大学の先生と意見交換したときに、学生は金融業界をどう思っていますかと聞いたら、彼らは「金融はオワコンだ」と言っているそうです(笑)。これは事実としてしっかり受け止めないといけません。

このような状況を変えていくためには、最先端の取り組みや金融データの魅力をしっかりと外に発信して、それを面白いと感じてもらえる人にどんどん入ってきてもらい、金融業界全体の底上げをしていくことが重要だと思うのです。

「この業界を少しでも盛り上げていきたい」、「金融業界のAI・データ活用を一過性のブームで終わらせてはならない」という危機感を持っています。そういう強い思いがあって、協会に所属する理事・顧問の方々のお力添えの下、金融データ活用推進協会を立ち上げました。

一般社団法人 金融データ活用推進協会 代表理事
岡田 拓郎氏

佐藤理事:私も同じ思いです。金融業界を見渡したときに、データ活用のできている金融機関は何とか残れるけれども、できていない金融機関から瓦解していってしまうのではないか、と感じました。もしそうなってしまったら、残ることのできた金融機関であっても「金融業界は終わったな」と思われてしまうので、そのマイナスイメージの大きさは計り知れないのではないでしょうか。

そうならないためには、まだ走り始めていない金融機関がスタートを切れるようにすることが大切です。データ活用のすそ野が広がって、データ活用に長けたプレーヤーが増えていくことで、先に進んでいるプレーヤーが金融業界の枠を超えてブレークスルーしていく、というのが望ましい金融業界の姿だと考えています。

一般社団法人 金融データ活用推進協会 理事 兼 企画出版委員会委員長
佐藤 市雄氏

NSSOL中橋:システムインテグレーターの立場から金融業界を見ると、金融機関は多様なデータを持っていて、そのクオリティーや鮮度についても、すごく気を使われて運用されていると思います。

一方で、良質なデータを持っているのに、その活用については「もったいない」と感じることがあります。金融は経済の血流であり、いろいろな産業界と手を結ぶハブになり得る存在です。そこから新しいデータを得たり、つくり出したりでき、活用することもできるはずです。金融データ活用推進協会は、そうしたあらゆる業界を横断したデータ活用の機運を高めていくのではないかと注目しています。新しいデータのエコシステムを金融業界全体でつくり上げていったら、ブレークスルーを起こせるほどの大きな力になるのではないでしょうか。

日鉄ソリューションズ株式会社
金融ソリューション事業本部 営業本部長
中橋 憲悟

金融機関同士で率直に意見交換したら、何倍もの成果が得られた

岡田代表理事:金融データ活用推進協会を設立するきっかけとなったのは、2019年10月にNSSOLが主催した、エンタープライズAIプラットフォーム「DataRobot」のユーザー会でした。3年前は、金融機関同士で直接話し合う機会はまずなくて、そういうコミュニティーに何十回と参加しても、競合相手に手の内を話せないので、主にヒアリングをするというスタンスでした。だから、DataRobotのユーザー会に誘われた当初も、金融機関同士で何を話そうかと迷っていました。

ところが、このユーザー会に1回参加しただけで、これまでに参加したコミュニティー10回分ぐらいの成果が得られました。金融業界からの参加者5~6人を1テーブルに集めてのワールドカフェ形式でしたが、各テーブルでのNSSOLのファシリテーションが手厚く、金融機関同士が隠しごとなしで、お互いの課題や解決策を率直に話し合えたからです。

このユーザー会を通して、金融機関が集まって話し合うと最短ルートでデータ活用が進められるのだと気づきました。競合相手には手の内を話せないとか言っている場合ではないと。であれば、「もっと金融機関同士で話し合った方がいいよね」という話になって、3カ月後の2020年1月に佐藤さんと一緒に、金融データ活用推進協会の元となるコミュニティーを発足させました。

佐藤理事:そうですね。新型コロナウイルスが流行る前だったこともあり、ユーザー会が終わった後にすぐに飲み会をやろうという話になって、そこでデータ活用のコミュニティーをつくろう、と決まりました。

その後、当時のコミュニティーに対しては継続してNSSOLから活動を支援したいとのお声がけをいただいていました。さらにNSSOL以外のITベンダーからも、「そういう取り組みは全面的に推していきたい」という後押しをいただいたので、さらに活動を広げるため社団法人化し、現在に至っています。

NSSOL近藤:当社が金融機関様向けに提供するソリューションごとのユーザー会とか、金融機関の皆様が情報交換できる場というのは、これだけではなく、たくさんつくっているのですが、今、お話を伺って、そういう場の提供を続けてきたことが我々の価値の一つになっているということを、改めて嬉しく思います。

日鉄ソリューションズ株式会社
金融ソリューション事業本部 営業本部 営業第三部 第2グループリーダー
近藤 隆之

金融業界のために協会が取り組む3つの施策と交流

岡田代表理事:協会では今、3つのことに取り組んでいます。3つとも、とにかく「金融機関の実務目線」をすごく大事にしています。

岡田代表理事:1つめの取り組みは、金融業界全体で目指すAI/データ利活用に関する共通認識の醸成です。FinTechをやれとかAIをやれと上から言われたけれども、何をしていいのか分からない、という人は業界全体でかなり多いと思います。また、ある程度は分かっていても、得意分野でないと何をすればいいか分からない、という人は大手でも結構います。そうした人に向けて「金融AIの教科書」とすることができるものの作成を進めています。

2つめは、やはり人材の育成と発掘です。具体的には1000人以上の規模でのデータコンペティションを企画しています。参加者は与えられた課題に沿って、データの分析と活用の成果を競います。コンペに使われるデータは、金融機関の実データとほとんど同じ性質のものを人工的に生成します。本物に近いデータなので、金融機関のデータサイエンティストたちは、コンペを通して自身の業務に活かせるアイデアを持ち帰ってほしいですね。

また、参加者のすそ野を広げるため、オンラインでの開催として場所の制約をなくしています。地方銀行の方にもどんどん参加してほしいですね。ほかにも大学生や他業種の方をはじめとした、金融業界におけるデータ活用の当事者ではない人にもぜひ参加いただき、金融業界におけるデータ利活用が持つ可能性の大きさや魅力を感じてもらいたいと思っています。

協会の3つめの取り組みは、各金融機関におけるデータ利活用をする力をアセスメントできるようにする仕組みづくりです。実務に生かせるスキルを持った優秀な人がいても、金融機関という古い組織の中ではその人の能力を活かしきれない、という問題が起こる可能性があります。そこで、データ利活用推進のため金融機関はどんな組織であるべきかについて誰もが分かる形で示そうとしています。人材の育成、ガバナンス、データ基盤、データ活用などの7分野においてチェックシート形式で定義することで、それらに対する各金融機関の状況の可視化を目指しています。業界共通の「物差し」があれば、各金融機関の客観的な立ち位置も分かるようになります。

佐藤理事:協会の取り組みとして、発足当時のコミュニティー、NSSOLのユーザー会から続いているコミュニティーとしての役割も大事にしたいので、3つのことを「つないでいこう」と思っています。

佐藤理事:1つは産学官連携です。9月に開催した協会のMeetupにはデジタル庁、金融庁、日銀、金融機関が参加していただいています。また、大学とも積極的に話をしています。金融業界ですので、公官庁とのつながりは非常に重視して、対話していきたいと考えています。

2つめのつながりは、金融業界を支えてもらっているパートナー企業やベンチャー企業の皆さんとのつながりです。隔週で開いている金融機関やパートナー企業の勉強会や、3カ月に1回の協会全体のMeetupにも参加してもらい、交流の活性化を図っています。

3つめのつながりは、業界内ですね。最初のコミュニティーは、最先端のデータ活用に関心が高く、実際に業務でも関わっている層に閉じていましたが、それ以外にもいろいろなセグメントがあります。若手の方であったり、リースやクレジットカードなどの細かいセグメントでもっと金融機関同士が交流してもらえるような企画を立てています。

岡田代表理事:Meetupでは、皆さん活発に情報交換しています。一番盛り上がった話題は、システム環境についてでした。金融機関でいざデータを分析しようと思っても、セキュリティー上、越えるべきハードルが多いのです。データを手元に持ってくるだけでも、加工せずそのまま持ってきていいのかどうか上司の判断を仰いだり、実際に分析するときも、自身の環境ではインターネットに接続できないとか、オープンソースのツールやライブラリーが使えない、といった制約があったりします。活用するために、まず分析が必要ですがそこにたどり着くまでの道のりが結構険しい。

それを各社はどうやって乗り越えてきたのか、いろいろな話が出ました。うちはこのハードルを越えられていないけど、こっちはこう乗り越えたとか、コンプライアンス部門をこう説得したとか。20代の若手が中心になって、すごく生き生きと話していました。1時間の会だったのですけれど、あっという間に終わってしまって、「延長できないのですか」と聞かれるくらい盛り上がりました。

NSSOLには金融業界の成功事例や実装を踏まえた方法論を共有してほしい

佐藤理事:こうした活動のなかで、協会のパートナーとして、NSSOLにはいろいろと期待しています。

私が勤めているSBIホールディングスでは、金融データの活用を通じた地方創生を戦略的に考えていて、地域金融機関と一緒に取り組むプロジェクトをいくつもやらせてもらっていました。そのときの経験で、データ活用に関係するシステムがきちんと動くとAI開発と改善のスピードが圧倒的に速い、というのを強く感じていました。

例えば仙台銀行では、「Mamecif(マメシフ)」という金融機関向けのリテール分析に特化したデータマートシステムを導入していました。NSSOLが開発していたのですが、Mamecifの個人顧客データを機械学習やいろいろな新しい手法で活用できそうだというアイデアを提案させてもらったところ、とても効果的な形で活用が進みました。ここ1年くらい、過去最高を更新するような高い成果を出せています。

そういった事例とか方法論をNSSOLの方から、協会と一緒に発信してもらい、こうすれば近道ですぐに成果が出せるという実例をどんどん一緒につくっていきたいと思っています。

NSSOL近藤:DXはデータに始まりデータで終わるので、データがすべてです。ただデータを扱うというのは、結構地道な部分もあります。そういう実務を知り抜いたファーストDXパートナーとして、データ活用の取り組みに当社のソリューションや個々のエンジニアが持っている技術や経験といった面でも貢献したいと考えています。

岡田代表理事:まさに成功事例の共有をNSSOLに望んでいます。データ活用のツールはいろいろあるのだけれども、どれを選んでいいか分からないという話はよくあります。そういうとき、ほかの金融機関で既にうまくいっているツールがあれば、それをそのまま使えばいいと考えています。同じツールでも、ビジネスとしてどう使うかというところで差別化できます。なので、うまくいっている事例を協会の中で共有することが一つ。

もう一つは、事例を共有したところで、それを実装できなければお勉強で終わってしまいます。協会の会員は金融機関がメインですが、NSSOLのようなビジネスパートナーと一緒にやっていくことで実装まで進めることができます。NSSOLは成功事例の共有と実装の両方ができるという立場から、協会の中でどんどん輪を広げていってほしい。

NSSOL近藤:協会の趣旨には本当に賛同していますので、それを実現するためのツールや成功事例などをぜひ提供させてもらいます。加えて、金融データを活用したDX推進や創出されたアイデアを基に事業化を支援する仕組みなども提供させてもらい、金融業界全体を一緒に盛り上げていきたいと思っています。

NSSOL中橋:特にこれからは、今あるデータの活用はもちろんのことながら、次の段階として今ないデータをどうやってつくるのか、どうやって集めるのかといったところも、より大きな活用のアイデアが出てきたときに必要になってきます。そうした「今存在していないデータをつくる・集める」といった取り組みにも、一緒に活動していきたいと思っています。

NSSOL中橋:例えば、地球温暖化問題に対して、これまで融資先の温室効果ガス排出量データとか、個人のスマートメーターから出てくる電力消費とかを集めて持っている金融機関はありませんでした。しかし今後は、投融資する際の重要な指標になっていくと考えられます。NSSOLはそのような場面でも貢献できると考えています。

産業のハブとしての金融機関が、そういったサプライチェーンを含めた企業活動の環境負荷や、個人の消費電力意識などをデータ化し、投融資の新たな指標に活用していくと大きなインパクトとなります。金融機関は、金融機能とデータの活用によって、世界の社会課題を解決する主要なプレーヤーになるという意味で、オワコンでは決してないと思っています。

金融業界を強くするため、3年後に会員400社を目指す

岡田代表理事:今後の抱負を一言で言うと、金融をもっともっと面白くしたい(笑)。コンペでも教科書でも、一つひとつ「面白い」取り組みを増やしていくと、金融の魅力そのものが高まっていって、それが日本経済を強くすることに貢献できると思っています。日本を強くするためには、やはり金融業界が強くならないといけない。

協会の会員は31社でスタートし、毎月10社くらいずつ増えて現在86社です。この短期間ですごく増えてきましたが、3年後に400社ぐらいの会員にしていくことを一つの目安にしています。金融業界の主なところが協会に参加していただけると400社ぐらいになるイメージです。データが多ければ多いほど面白くなりますし、やはり業界横断でやりたいという思いがあります。この活動がいろいろな金融機関への刺激となり、各金融機関が活性化していってほしい。

NSSOL中橋:400社の金融データとデータ活用事例があつまる世界は、想像するだけでもわくわくしますね。

NSSOLとしては、金融機関様の、こういうビジネスアイデアを実現したいとか、こういう金融機能を使った社会課題解決をしたい、という新しいデータ活用の目的を共創しつつ、業務知見とデータテクノロジーを駆使しソリューションを提供できるファーストDXパートナーとして、金融業界の活性化に貢献していきたいと考えています。

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