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2020-10-06 DX
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<対談>優位性を極めるデジタルトランスフォーメーション

〜DXの意味を問い直し、競争力の源泉を引き出す実行戦略とは〜

デジタルトランスフォーメーション(DX)の成否が企業の命運を左右すると言われるなか、日本製鉄は2020年4月デジタル改革推進部を新設してDXの推進体制を強化した。同組織と情報システム部の両部長を兼務する中田昌宏氏と、日鉄ソリューションズが同時期に新設したDX推進&ソリューション企画・コンサルティングセンターの所長として顧客フロントに立つ齋藤聡が語り合った。(文中敬称略)

中田 昌宏氏
日本製鉄株式会社
執行役員
デジタル改革推進部長兼情報システム部長

齋藤 聡
日鉄ソリューションズ株式会社
執行役員
DX推進&ソリューション企画・コンサルティングセンター所長
兼技術本部システム研究開発センター所長

ポイント

  • デジタルでいかに早く先へ行くか 製造系と情報系を一貫するものづくりへ
  • 意思決定の在り方を改革するために長年蓄積してきたデータをフル活用する
  • 人の気づきや創造力を刺激するため人間の感覚に近い情報をデジタル技術で見せる

デジタルでいかに早く先へ行くか 製造系と情報系を一貫するものづくりへ

齋藤:鉄鋼業の環境条件が激変するなか、DXを強力に推進する体制をつくりましたね。その背景をお聞かせください。

中田:日本がリーダーシップを取ってきた鉄鋼市場は、中国や新興国が次々に参入し、現在の厳しい競争環境に至っていることはご存じのとおりです。しかし、実は本当に怖いのは、欧州などのプラントメーカーによって操業情報がデジタルデータとして蓄積され、それがパッケージの形で中国や新興国に納入され始めているということです。
このように新設された多くの設備からもデータを吸収することで、格段と改善の進んだ製鉄事業がフルターンキーで立ち上がってしまう。こうなると、従来のような仕事の仕方だけでは勝てません。当社としてはデジタルの怖さとともに、逆にそれを使って新興国のサイクルよりもいかに早く先へ行くか。このせめぎ合いを常にやっていかなければならない緊迫感、危機意識が我々の中にあります。

齋藤:デジタルが競争力を左右するという、まさに切迫した中でデジタル改革推進部が設置されたのですね。

中田:製造現場も含めて全社的に広く改革を進めるデジタル改革推進部と、全社への最新ICT導入を含めた対応をしっかり行う情報システム部の両輪で実行していきます。
製鉄のプロセスは大きく3階層あります。モーターやセンサーなどからなる電気・計装の階層、プラント全体を調整するプロセスコンピューティングの階層。そしてNSSOLさんがメインの情報処理の階層です。これらの階層の技術はかつて明確に分かれていました。それがものづくりのさらなる高度化のために、今は互いにコラボレーションをしなければなりません。
つまり、一貫したものづくりが大事なのです。我々の優位性は製造系とその上の情報系とのつながりにあります。人間で言えば手足の部分が追い付かれてきたとしても、我々は頭と手足、五感の全体連携で勝負する。情報系のITと製造系のOTをコーディネートした総合力、ここが競争力の源泉だと思います。

中田 昌宏(なかた・まさひろ)氏
1992年、新日本製鐵株式会社入社。2003年、カーネギーメロン大学材料科学科修士課程修了。2012年、新日鐵住金株式会社 名古屋製鐵所生産技術部上席主幹。2014年、技術総括部技術総括室長。2016年、君津製鐵所製鋼部長。2018年、業務プロセス改革推進部上席主幹。2020年4月より現職。

意思決定の在り方を改革するために長年蓄積してきたデータをフル活用する

齋藤:DXの道筋は企業の歴史や置かれた状況によって変わります。日本製鉄はどのようにDXに取り組みますか。

中田:当社にとってDXとは、意思決定の在り方を大胆に改革することです。一つの製鉄所で蓄えてきたデータはその製鉄所の意思決定でしか使われてこなかったのが現状で、これを全体の意思決定に結び付けていくことです。
当社にとって競争優位の基盤は、やはり長年蓄積してきた相当量のデータにあると言えます。ただ、それが製鉄所ごとに分散配置されてきました。これをどうやって有機的にうまく結び付け、次の意思決定に結び付けるかが問題です。

齋藤:データの取得から取り組むお客様もいらっしゃる中で、日本製鉄は既に大量のデータを収集・保持しています。この点はアドバンテージだと言えますね。一方、製造現場が大規模多拠点であることからデータの標準化、統合への取り組みが大切になります。データ利活用、DXの目的を「短期」「中長期」でどのようにお考えですか。

中田:課題として目前に迫るのは、まず世代交代がある中でマネジメントをどううまく回していくかということです。スタッフであれ現場の人であれ、知識や技能をしっかり残す仕組みをつくらないと事業の継続性が担保できません。標準書という紙ベースの資料はありますが、それだけでは伝承は難しい。知識だけでなく経験も必要であるからです。ここをぜひデジタルで解決していきたい。
もう1つ、組織の意思決定の支援についても取り組みを加速させたい課題と言えます。とくに当社のような大規模多拠点の工場、生産プロセスをマネジメントするには、大量データのやり取りはもちろん、多段階での意思決定が欠かせません。データを共有し、見える化をすることによってタイムリーな意思決定をサポートしていきたいと考えています。

齋藤:熟練者の経験による判断や、複数組織の連携による判断など「五感の全体連携のデジタル化」という挑戦的な取り組みになりますね。その中で、特にチャレンジングな点があるとすれば何でしょうか。

中田:それは我々のような産業ならではの難しさだと思います。組み立て産業とは異なり鉄鋼業は連産品産業と言われ、上工程に行くほど製造ロットが大きくなります。受注は最小ですと1トン、2トンですが、製造できる最小ロットは200トンとか300トンです。つまり受注したタイミングでは、上工程で製造する注文の組み合わせは決まりません。最初の工程で一緒に製造する注文の最適な組み合わせを膨大な数から選ぶのは至難の業で、今でも人の頭脳に頼る部分があります。
その知見を早く仕組みに落とし込んで、先へもっと進みたい。3年前にそのアルゴリズムを考える専属チームをつくり、大きく先へ進んだと考えています。

齋藤:専属チームの一員として私たちも全力を尽くします。人の判断をデジタルに完全に置き換えるのはもう少し未来の話なので、一部の判断をデジタルに置き換える、すなわち人の判断をデジタルが支援することになると思います。具体的には、判断材料となる種々の情報を人に分かりやすく提示すること、そして判断の指針を示すことです。前者はデジタルツイン、後者は最適化と呼ばれる技術領域になります。

齋藤 聡(さいとう・たかし)
1991年、新日本製鐵株式会社入社。1996年、エレクトロニクス・情報通信事業本部システム商品部掛長。2001年、新日鉄ソリューションズ株式会社に出向。2014年、ITインフラソリューション事業本部ITエンジニアリング事業部長。2017年、技術本部システム研究開発センター所長。2020年4月より現職。

人の気づきや創造力を刺激するため人間の感覚に近い情報をデジタル技術で見せる

中田:以前はデータ処理能力の制約があり、データを代表値にするなどして情報の量と質を落として取り扱う必要がありました。そのため限られた情報に加えて、人が蓄積してきたノウハウや経験を総動員することで適切な判断を行ってきたわけです。いわゆる熟練者の技と言われるものです。それが技術進展により、詳細データをそのまま処理することが可能となってきたわけですが、一方で、膨大なデータをそのまま人に提示しても適切な理解ができません。情報の質を落とさずに人が理解できる形で提供する仕組み、つまりデジタルツインが必要となってきたわけです。
生産計画の立案を例にとると、すべての条件に満足する答えを得ることはほぼ無理なので、何かしらのトレードオフ(優先順位付け)の判断が必要になります。デジタルツインにより判断に必要な情報を適時的確に提供すること、言い換えれば、人の経験や感覚に頼ってきた部分をデジタルに置き換えることができれば、人はより判断に集中することができるでしょう。

齋藤:最適な生産ロットを組む場面では、人の気づきをサポートする最適化技術の適用に向けて取り組まれていますね。蓄積された人の判断経験や生産結果をデジタル化して、最適と思われる生産ロットのパターンを提示しています。今後も人が新しい状態に気づき、新しい判断を下せるよう、最適化の仕組みも多くの周辺情報を取り込みながら進化することが求められますね。
また、人の気づきのサポートは、デジタルツインの目指すところでもあります。判断に携わる方々が風景を見るようにと言いますか、デジタルに転写された情報や、最適化技術などで処理された情報に対して直感的に、かつ物理的な場所に依存せず、そして同時に触れられるのは大事なことです。
これらに加えて、日本製鉄のシステムでは生産を取り巻く状況の激しい変化への追随、効果の見込める仕組みの早期リリースなど、アジリティを取り入れることにも余念がありません。まさにDX、デジタルで先へ行く取り組みを進められていると感じます。

中田:我々は、新たな気づきや価値創出が継続的に得られるように、人に刺激を与え続ける仕組みづくりを目指しており、その中にデジタルツインやアジャイル開発を位置付けています。しかし、すべてのシステムをアジャイル開発で行うことにはならないでしょう。変化が少なく確実性が求められるシステムでは、従来のウォーターフォール型が適しているケースも多々あり、異なる手法を両立させることが大切だと考えています。こうした開発体制の強化に向けて引き続きご協力をお願いします。
また、技術進展が著しい中で、特定メンバーだけが追従できれば良いということにはなりません。効果的なシステム対策を講じるためには、システム部門とユーザー(業務)部門とのコラボレーションは必須です。特にユーザーのシステムリテラシーを高めることがより大切になると考えており、昨年からユーザー支援体制の強化に取り組んでいます。システム開発時だけでなく、運用時においてもリテラシー向上へのご支援を期待しています。

齋藤:お任せください。私たちは、「デジタル技術を使いこなすこと」はもちろん、「お客様の業務、ご苦労を理解した上で、競争力の源泉である組織・業務プロセス・システムの持続的な変革をご一緒すること」を大事にしています。それらを2つとも磨かせていただける関係は大変ありがたく、得たものをしっかりとお戻しするつもりです。
本日はどうもありがとうございました。

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