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2017-08-25 DX データ活用
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【対談】AIの進化がもたらす新時代の企業経営

~DataRobotによる「機械学習の民主化」が競争力を強化~

(左) ジェレミー・アシン氏 米DataRobot,Inc. CEO
(右) 森田 宏之 新日鉄住金ソリューションズ株式会社 取締役 常務執行役員

製造・流通・サービス、金融、医療・ヘルスケアといった幅広い業種でAI(人工知能)の活用が進んでいる。
AIの進化は企業経営をどう変えるのか。AIの主要技術である機械学習を自動化するソフトウエア製品を開発した米DataRobot社のCEO(最高経営責任者)であるジェレミー・アシン氏と、同製品の国内提供を行う新日鉄住金ソリューションズの取締役 常務執行役員である森田宏之が語り合った。(文中敬称略)

幅広い業種の企業がAIでビジネスを変革
機械学習の自動化によってAIの技術を開放

森田:幅広い業種の企業がAIを活用してビジネス上の成果を出すようになるなか、御社のソフトウエア製品「DataRobot」が注目されています。AIの主要技術である機械学習の利便性と精度を飛躍的に高めてくれますが、どのような背景で御社はDataRobotを開発したのでしょうか?

アシン:以前、私はデータサイエンティストとして米大手保険会社に約8年間勤務していました。主に機械学習の技術を活用したビジネスソリューションを開発していましたが、成果を出すまでにプログラミングを長い時間行う必要があり、技術的なブレークスルーが必要だと感じていました。人材を育成する方法もありますが、長い年月がかかります。そこで逆に機械であるコンピュータを教育できるようにしたいと考えたのがきっかけでした。ちょうど、私自身も人生の岐路にあると感じていた時期で、新たな可能性を求めて起業しました。
米国では既に、政府・公共、金融、製造といった幅広い業種のお客様がDataRobotを導入し、成果を出しています。
まず、多くのスタートアップ企業が、DataRobotを活用して医療・ヘルスケアや金融(FinTech)関連の新サービスの提供を始めました。また、世界最大規模のある金融機関はDataRobotを活用して約40に上るAIのプロジェクトを進めていますが、ほとんどのプロジェクトをビジネスの担当者が主導しています。このようにDataRobotはデータサイエンスを専門としない人々に、機械学習というAIの技術を開放しました。当社はこれを「機械学習の民主化」あるいは「データサイエンスの民主化」と呼んでいます。

森田:当社がDataRobotの国内提供を他社に先駆けて開始した理由は、その革新性です。当社はKDD CUPというデータ分析に関する世界的な競技会で2015年に第2位になったのですが、そのメンバーらがDataRobot社のプレゼンテーションを見て「すごい製品がある」と報告してきました。8人の専門家が約2週間かけて行った予測モデル構築を半日で終えてしまうというのです。その製品がDataRobotでした。
DataRobotのニーズは日本でも大変高く、大手のEC(電子商取引)事業者、製造業、金融機関のお客様が続々と導入を決定しています。IoT(モノのインターネット)への取り組みが盛んになり、収集したデータを分析するデータサイエンティストの不足が顕著になったことが理由の一つでしょう。これだけニーズが高い企業向けソフトウエア製品は久々です。

アシン:DataRobotには、会社と製品のそれぞれに強みがあります。会社の強みは、優秀な人材が豊富なことです。まず、私自身がデータサイエンティストであり、Kaggleという世界的なモデル構築の競技会で何度か優勝経験があります。そのような人間がCEOを務める会社なので、同様の実績を持つ優秀なデータサイエンティストたちが当社に集まっています。
製品の強みは二つあります。一つはPython、R、TensorFlow、Sparkといった優れたオープンソースソフトウエア(OSS)をベースに製品を開発していることです。既に常識になっていると思いますが、今やAI・機械学習におけるベストのアルゴリズムはOSSとして実装されており、当社の社員はそのOSSの世界に精通しています。
もう一つは、当社が最初から機械学習の自動化という先端的な取り組みを行っていたことです。今では他社も自動化に取り組むようになりましたが、当社製品のように全面的な自動化を目指しているものはまだありません。

森田:実際にDataRobotを使っていただいたお客様は、モデルを短時間で自動的に構築でき、精度が高いと評価しています。1000を超える機械学習のアルゴリズムの中から最適なものを自動的に見つけるため、ある金融機関では人間が思いもしなかった優良見込み顧客のグループを発見しました。
DataRobotを使うと、データサイエンスの専門家並みの高度な仕事をビジネスの担当者が行えるため、ビジネスの担当者がビジネス施策といった、より付加価値の高い仕事にフォーカスできるところも評価されています。
DataRobot はバージョンアップで次々に新機能が追加されており、将来も楽しみな製品です。

アシン:私や、ともに製品を開発しているデータサイエンティストは頭の中で、未来永劫続く製品開発ロードマップを作成しています。当面の目標は、可能な限りの自動化、それも他に例のない高水準の自動化を進めることです。そのため、研究開発部門を持続的に拡大しています。

Jeremy Achin(ジェレミー・アシン)氏
米保険最大手のTravelers Insuranceで保険業務に関わる様々な予測モデルの研究・開発責任者として勤務した後、2012年にDataRobotを設立。余暇の時間も予測モデルの構築に励む熱狂的なデータサイエンティスト。

DataRobotの本格活用には環境整備が必要に
NSSOLはITインフラの運用まで一体で提供

森田:DataRobotは革新的なソフトウエア製品である半面、本格的な活用には、お客様の環境整備も必要ですね。

アシン:企業がDataRobotを活用して最大の成果を得るには、役員のような経営幹部が、DataRobotの導入・活用に対して全面的に賛同することが重要です。時間がかかる場合もありますが、経営幹部が賛同すれば、驚くほど短期間に導入範囲が拡大します。前述した米大手金融機関では、COO(最高執行責任者)がDataRobotを活用したプロジェクトに強い関心を持ち、その重要性を全行員の前で訴えたところ、他のプロジェクトがDataRobotを続々と採用しました。
当社としても、経営幹部の方々の理解を促進できるように「DataRobotユニバーシティ」という教育サービスの中で経営幹部向けの講座を開いています。3~4時間の受講でAIや機械学習に関する考え方を整理でき、受講者から高い評価を頂いています。日本ではDataRobotユーザー向けの基礎講座を開いていますが、それに加えて経営幹部向けの講座を開催できないか検討しているところです。

森田:ご指摘のように、DataRobotの導入・活用に際しては、経営幹部が経営へのインパクトを正しく理解する必要があります。AIの技術自体を詳しく知るというより、それで何が可能になりはじめているのかを把握する必要があります。
さらに企業がDataRobotを本格的に活用するには実務的な環境整備が欠かせません。大きく分けて二つあります。
一つはデータの入口で、分析する価値があるデータをきちんと収集しているかどうかです。大量にあるデータのうち価値が高いものを見定め、DataRobotに入力できるようにする必要があります。重要だが取得できていないデータがあればそれを入力できるようにする必要もあります。
もう一つはデータの出口で、分析結果を単なる数字ではなく、そこから経営的・ビジネス的な意味を読み取り、マーケティングや製品開発の各種施策につなげることです。これは主にデータサイエンスに通じたスタッフの役割になります。
当社は、「absonne(アブソンヌ)」というクラウドITインフラサービス上にDataRobotを搭載し、DataRobotとITインフラの運用を一体で提供するサービスも始めました。お客様が望めばDataRobotを利用する前段階の問題提起から学習用データの定義、データの収集・加工手段の構築まで、導入企業をトータルに支援できます。

森田 宏之(もりた・ひろゆき)
1982年、新日本製鐵株式会社入社。新日鉄住金ソリューションズ株式会社では米国現地法人の立ち上げ、金融事業部門で営業や技術部門の責任者、および全社の企画部長、財務部長を歴任し、産業・流通事業部門を統括。2016年6月より現職。

「民主化」されたAIの普及が企業経営を変革
経営的な問題の発生を予測して対応可能に

森田:Dat aRobot のような「民主化」されたAIが普及すると、企業経営は大きく変わりますね。

アシン:二つの変化があると思います。
第一に、取締役会が経営者を評価する際、あるいは経営者が部下を評価する際の指標が変わります。AIや機械学習の活用は企業業績向上に直結するため、AIを活用したプロジェクトをいくつ実行するか、実行したプロジェクトがどれくらい売り上げや利益に貢献したかが重要な評価指標になるでしょう。役員の人たちはAIをどのビジネスにどれくらい活用できるかを常に検討するようになります。
第二に、少し先になると思いますが、多くの企業に「AIの役員」が出現するでしょう。これはSF映画に出てくるようなAIのロボットが役員になるという意味ではありません。AIのシステムを活用することで、経営的な問題が発生した時、迅速に警告が出されるとともに、警告に対する施策が自動的に勧告されるようになり、実質的な役員になるという意味です。
これは意外に早く実現するかもしれません。既に米国のMBA(経営学修士)コースではAIを活用したデータ分析が教えられており、DataRobotもMBAのコースで使われています。次世代の役員は、そのようにMBAの段階でAI活用のスキルを習得していますので、違和感なく実現できるでしょう。

森田:日本においてもAIの活用で経営を変革したいというニーズは急速に高まると思います。ご存じのように日本は超高齢化社会を迎え、一人ひとりが付加価値のより高いビジネスにフォーカスしなければ持続的な成長が実現できなくなってきました。DataRobotのようなAIを活用すれば、幅広い領域のマネジメントで自動化を進め、新事業開発のような付加価値の高いビジネスに、人材をシフトできるようになります。
例えば、金融機関ではリスク管理に関する非常に高度な分析を行って警告を出す仕組みがありますが、AIを活用すればより少ない人手で高精度なものが実現できます。会社の経営状態をモニタリングして、将来を予測してより迅速にアラームを出す仕組みもAIを使えば効率的に実現可能で、人手と経験に頼る経営に比べ飛躍的に早く施策が打てます。
今日は、どうもありがとうございました。

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