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2018-01-25 グローバル
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【対談】グローバルERP、「本社集中」という理想

~海外システムの標準化とデータの一元化で経営に貢献~

(左)重松 久喜氏(株式会社島津製作所 業務システム統括部 情報システム部 部長)
(右)藤田 賢太郎(新日鉄住金ソリューションズ株式会社 産業ソリューション事業部 システムエンジニアリング第三部長)

グローバル企業にとって、海外拠点で利用する情報システムの構築・運用は、コストやガバナンスの面で試行錯誤の連続だった。そうした中、海外のシステムを日本に一極集中させる島津製作所の手法は「理想形の一つ」といえよう。同社情報システム部の重松久喜部長と同社のシステム構築を長年支援してきた新日鉄住金ソリューションズ(NSSOL)の藤田賢太郎が語り合った。(文中敬称略)

海外市場での躍進を支える基幹系システム
業務とITの「標準化」がキーポイントに

藤田:島津製作所様の売上高と最終利益は過去最高となり、4期連続の増収増益となりました。最近は海外事業が好調なようですね。

重松:おかげさまで当社では、国内市場での成長を上回るペースで海外事業が伸びています。特に中国市場での成長が大きく、2016年度の海外売上高比率は49%となりました。ここ10年で17ポイント上昇しています。

藤田:成長機会となる海外市場で好業績を上げるにはやはり情報システムの支援が不可欠ですが、島津製作所様は、これまで海外拠点で開発・運用していた情報システムを順次「本社集中型」のシステムに置き換えられています。日本で開発し、日本で運用する海外拠点向けのシステムを、ネットワーク経由で利用するかたちです。かといって、本社のシステムをそのまま海外で使わせるのではなく、各国・各社の事情に合わせる柔軟性も持たせていらっしゃる。

このようなシステムの開発・運用では島津製作所様が先頭グループを走っていると思うのですが、どのような方針で開発・運用なさっているのでしょうか。

重松:まず大きな目標として、世界中で「業務を標準化」するべきだと考えています。生産・管理業務などの進め方と情報システムをセットで海外拠点に展開して、根幹部分の標準化を進めるわけです。そうしておけば、何か課題が発生しても世界中で蓄積したノウハウを基に、すぐ解決できます。

そのうえでグループ全体の経営データの粒度を整えて可視化し、意思決定のスピードを高めていかなければなりません。 これを実現するには「本社集中型」の情報システムが最適と考え、2005年から移行を進めてきました。

システム構成は、日本の本社に設置した大規模サーバーのOracle SuperCluster M7に、ERPシステムOracle E-BusinessSuite(EBS)のインスタンスを国内外のグループ会社向けに構築して運用しています。既に国内グループ会社の大半と中国・アジア地域で利用するシステムはOracle EBSに置き換えました。欧州や北米・南米のシステムもこれから切り替えていくところです。

ただし、日本で開発したシステムを海外に100%押し付けるようなことはしていません。各国の事情がありますから、標準化と現地化という背反事象のバランスを取りながら導入しています。まだ集約化の途中ですが、これまでの成果を振り返れば、この方法が最適だったのだと実感しています。

重松 久喜(しげまつ・ひさき)氏
1988年、株式会社島津製作所入社。情報システム部に配属。以来一貫して基幹システムの導入・運用を担当。2012年4月からの4年間は、中国上海にある現地法人、島津企業管理(中国)有限公司情報システム部に出向。中国におけるIT責任者として基幹システムの導入、IT基盤整備などを推進。2017年4月より現職。

かつては海外拠点ごとにシステムを構築していたが
本社集中型に変えてから経営データの活用が格段に向上

藤田:海外拠点で利用するシステムには、「開発・運用を現地に任せるべきか否か」、あるいは「日本と同じシステムを海外でも使わせるか否か」という問題がよく議論されていて、大きく分けて3つのパターンで展開することが多いと思います。1つは、本社システムをそのまま海外でも使わせる、という外資系企業に多いかたち。2つめは、本社システムをベースに海外拠点の事情に合わせて導入する方法。そして3つめは、よくある現地法人に任せっきりのパターンです。1つめのパターンでは海外拠点側の抵抗感が強くなりやすく、3つめのパターンではITガバナンスが利かなくなったりデータの内容や粒度がばらつきやすかったりします。

島津製作所様の場合、「日本と同じシステムを海外でも使わせるか否か」という観点では2番目に近いと思うのですが、一般的なやり方と比べて展開の仕方が理にかなった、上手なやり方をされていると感じます。まずはアジアを中心にシステムをしっかり再構築し、海外で必要な機能を一度整理してからテンプレートをつくり、それを欧州や米州に展開していく方法をとっていらっしゃるからです。現地の事情も踏まえつつ、標準化を徹底されています。

重松:それは過去の経験から得た知恵です。当社も、海外展開を始めた当初は海外の拠点ごとにシステムを構築・運用していました。"適材適所"でシステムを構築してきたわけですが、現地システムの詳細な仕様が分からないこともあり、データ交換にはかなりの手間がかかっていました。

その点、現在移行中の本社集中型のシステムは、アジアでの導入を経て、標準化を徹底しなければいけない部分と、どうしても現地の事情に合わせる必要がある部分を見極められました。システムの根幹を標準化し、かつデータを日本で一元管理することで、言語は違っても基本的に同じ業務フローとデータで業務を進められるようになりました。

そこから得られるメリットは極めて大きいです。例えばデータの粒度がそろったことで、今は海外のデータを「自由な切り口」で比較・分析できます。これを知った経営層からは、経営データ分析のリクエストが急に増えました(笑)。実に様々な依頼が来るようになりましたが、以前と比べてはるかに迅速に対応できました。海外のシステムがばらばらだったときには考えられなかったことです。

藤田:まさに海外拠点向けのシステムを本社集中型で標準化したからこそ、経営に一層貢献するシステムになったわけですね。

少し前だと、国際通信回線や相手国内のネットワークがあまり整備されていなかったこともありましたので、今の島津製作所様のような本社集中型のシステム構成はなかなか現実的ではなかったといえます。現地にサーバーを設置していないと、実用的なレスポンスが得られませんでしたから。

そういう意味では、島津製作所様は国際通信回線の整備やネットワーク技術の進化の波にいち早く乗り、回線コストを抑えつつ「本社集中型」というグローバルシステムの一つの理想形へ着実に近づいているのだろうと感じています。

藤田 賢太郎(ふじた・けんたろう)
1989年、新日本製鐵株式会社入社。入社以来一貫してERPパッケージを活用した大規模基幹系システム構築にプロジェクトマネージャ(PM)として従事。現在も新日鉄住金ソリューションズで多くのERPプロジェクトを牽引する一方、NSSOLアカデミーPM系リーダーとしてPM系人材の育成にも注力。

海外でのシステム開発・導入には
グローバルサポートを受けられるパートナーが必要

重松:ただし、本社集中型の利点は多々あるのですが、開発・導入に当たっては海外拠点での現地語によるサポートが必要だと考えています。

私が中国現地法人の情報システム部にいたときの話になりますが、中国では英語を話せる人は少なく、日本人は英語を話せても中国語を話せる人はあまりおりません。そのような状況でしたので、NSSOLの中国現地法人である新日鉄住金軟件(上海)(以下、NSSOL上海)に現地でのユーザーテストから中国語のマニュアル作成、ユーザー教育、稼働時の問い合わせ対応に至るまでのサポートをお願いしました。

日本側には本社の情報システム部と日本のNSSOLがいる、中国側には中国の情報システム部とNSSOL上海がいるという体制を取ったわけです。

この4者の連携が、非常に効果的に機能しました。技術面では日本と中国のNSSOL同士で話を直接してもらったり、中国の問題については中国の情報システム部とNSSOL上海の間だけで検討を進められたりしました。こういう、まさにグローバルなサポートをしてもらい、効率的に仕事を進められたことが強く印象に残っています。

逆に、グローバルサポートができるパートナーと組むことが、海外展開における有効なアプローチだといえるのではないでしょうか。

藤田:NSSOL上海をご評価いただき、ありがとうございます。グローバルなシステムでは、やはり現地でのサポートにご苦労なさる日本企業が多いので、重松様がおっしゃるように重要な検討ポイントだと感じています。

重松:これからの計画としては、時差12時間のブラジルのシステムを本社集中型に移行させ、その後に同9時間の英国のシステム移行を進めていきます。本社側の運用が24時間365日になるので、運用体制をどうするかは大きな課題となっています。

何か問題が起こったときの1次窓口を集約して24時間対応ができるよう、パートナーの協力を得ながら体制をつくる方向で検討しているところです。

藤田:時差の壁は悩ましい問題ですが、当社には製鉄の世界で培った24時間365日運用のノウハウとサポート体制がありますので、1次窓口を24時間365日運用することに関して、様々なご支援ができると思います。

また、本社集中型システムの構築を始めた2005年から13年間ご支援させていただいて、当社のメンバーも本当に島津製作所様の開発・運用メンバーの一員として業務や経営への理解を深めてまいりました。
こうした経験と業務知識の蓄積を、今、お手伝いさせていただいているBI(ビジネスインテリジェンス)の構築に生かしていきたいと考えておりますし、将来的にはMES(製造実行システム)やIoT(モノのインターネット)によって、グローバルの生産状況や原価を日本の本社でリアルに把握できる、究極の本社集中型システムをぜひともご支援の中で実現していきたいと考えております。

本日は、どうもありがとうございました。

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