世界最先端の研究を支える使いやすい基幹ネットワークを構築

国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構様

プロジェクト概要

背景

世界最先端の研究を実現する3GeV(ギガエレクトロンボルト)高輝度放射光施設において、実験データの収集や実験装置の維持管理に用いる基幹ネットワークの整備が求められた。

ソリューション

ナノテラスには世界中の研究者が集まり、実験データの伝送量が400Gbpsに達することから、高速回線をベースとしたマルチテナント型のアーキテクチャーを採用した。

成果

同様の設備を持つ研究施設よりも使いやすいネットワーク環境を構築できた。今後は海外からでもナノテラスを利用できるリモートアクセス環境を構築する考え。

基幹ネットの伝送量は400Gbps

周長349メートルの加速器が生み出す放射光(X線)を利用して、物質の構造や機能をナノレベルで鮮明に分析する─。この世界最先端の研究を可能にするのが「NanoTerasu(以下、ナノテラス)」の愛称を持つ3GeV高輝度放射光施設である。国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(以下、QST)と一般財団法人光科学イノベーションセンターが東北大学の青葉山キャンパス内に380億円を投じて建設した。2024年4月から運用開始予定だ。
このナノテラスにおける研究を支える重要なインフラの一つは、実験データの収集や実験装置の維持管理などに用いる基幹ネットワークである。QST次世代放射光施設整備開発センター ビームライングループ上席技術員の中谷 健氏は、「加速器の運転中は厳密な実験計画が組まれるため、基幹ネットワークには24時間365日稼働する堅牢性と信頼性が求められます」と語る。
さらに加速器が発生する放射光の影響を受けない設計の工夫に加えて、施設が本格稼働する際には最終的に28カ所の「ビームライン」と呼ばれる実験装置の設置が予定されており、400Gbpsに達する膨大な実験データが基幹ネットワークを流れると見込まれる。そのため、大量のデータを欠損なく処理できる高性能が求められる。

国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構 次世代放射光施設整備開発センター ビームライングループ 上席技術員 中谷 健氏
国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構 次世代放射光施設整備開発センター ビームライングループ 上席技術員
中谷 健氏

マルチテナント型で論理的に分割

QSTはナノテラスの基幹ネットワーク構築のパートナーとして日鉄ソリューションズ(以下、NSSOL)を選んだ。厳正な技術審査や入札の過程で、技術力はもちろん、茨城県東海村の加速器施設「J-PARC」における基幹ネットワークやデータ集積システムの構築に実績がある点などを評価した結果である。
QSTとNSSOLは2021年2月に基幹ネットワークの構築プロジェクトをスタートした。ナノテラスは官民共同で使用する施設のため、情報セキュリティーポリシーの異なるさまざまな組織が、共同で基幹ネットワークを利用することになる。そこでNSSOLは仮想化技術によってネットワークを論理的に分割し、利用者のネットワークが相互に干渉せず、利用時の自由度が高いマルチテナント型アーキテクチャーを採用した。
中谷氏は「ナノテラスには世界中の研究者が集まることから、最終的にどういう使い方をするのか、どのような機能が求められるのかを予測しきれない部分があります。そこでNSSOLには、同様の共用実験施設プロジェクトで得た知見を基に、将来的なニーズを先取りできる設計をしてもらいました」と述べる。

研究施設の複雑な構築工程に対応

プロジェクトマネジメントにおけるNSSOLの評価も高い。ナノテラスの建設には、QSTをはじめ、建設会社や地域パートナー5団体などの多様なステークホルダーが関わっているほか、一般的なネットワークの構築とは工程が全く異なり、プロジェクトを円滑に進めるには経験と高度なマネジメントが必要だった。
「加速器が設置される建屋は特殊な構造のため、場合によってはネットワーク回線を外部に迂回させて引く必要があるなど、通常のビルにネットワークを設置するのとは全く異なるノウハウが求められます。加速器の組み立て作業に応じて、ネットワークの工事を実施できる時期や立ち入れる場所が制限されてしまうといった難しさもあります。どのように作業を進めればよいのか、という知見を持つNSSOLだからこそ、建設会社との連携も上手くいったと思います」と中谷氏は振り返る。

ほかの実験施設より使いやすい

ナノテラスは予定通り2023年3月に完成し、現在は2024年4月からの運用開始に向けて加速器の試験運転を重ねている段階だ。稼働後10年間で地域に与える経済効果は1兆9000億円と試算されている。
基幹ネットワークは設計通りのパフォーマンスを発揮している。「同様の実験施設に導入されているネットワークよりも使いやすく少人数で運用できており、成果に満足しています」と中谷氏は評価している。
今後は、海外を含めて施設の外部から実験を行う「遠隔実験」に対応するため、基幹ネットワークへのリモートアクセス機能を強化する考えだ。「NSSOLには今後とも、スピード感をもってナノテラスを支援してほしい」と中谷氏は期待を寄せる。

コアテクノロジー

●マルチテナント型ネットワークの構築ノウハウ、ネットワーク仮想化、プロジェクトマネジメント

システム概要

●研究施設におけるマルチテナント型の高速基幹ネットワーク

関連SDGs

SDGs 9

研究開発を通じて持続可能な未来社会の実現に貢献

SDGs 17

組織の枠を超えて多様な人々との交流・協働を推進

ナノテラスのネットワーク構成

・NS(ロゴ)、NSSOL、NS Solutionsは、日鉄ソリューションズ株式会社の登録商標です。
・その他本文及び図表内に記載の会社名及び製品名は、それぞれ各社の商標又は登録商標です。

国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構様

本部: 千葉県千葉市稲毛区穴川4-9-1
設立: 2016年
職員数: 約1300名(2022年度)
年間予算額: 433億円(2023年度、核融合関係・次世代放射光関係補助金を含む)

※ユーザー事例の記事内容は掲載当時のものとなっております。

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